オランダでの医療カナビス経験

アーサー・レッチェス(アメリカ人)
筋肉のけいれん


私は、アーサー・レッチェスという42才のアメリカ人です。幸いにも、2年前から仕事でオランダで暮らすようになりました。この国では、合法同然のカナビスを安価に手に入れることができますが、医者の処方箋を持った患者にのみ販売されている医薬品グレードの 「医療カナビス」 を薬局で買うこともできます。


オランダの恩恵

ですが、医療カナビスに対するオランダ政府の取組には相反する面も見られます。それは、余命2年という終末期の患者たちさんは何の問題もなくすんなりと医療カナビスを受け取れるのに対して、私のように終末期にない患者は少し違うのです。

私は、外傷性椎間板ヘルニアが原因で痛みを伴う筋肉のけいれんと神経過敏症を持ってますが、終末期というわけではありません。お医者さんからは医療カナビスの処方箋を出してもらうことはできますが、実際には、それを信用して売ってくれるオランダの薬局はどこにもないのです。

しかし、こうした奇妙な状況にはありますが、懇意にしてもらっているお医者さんには、カナビスの使用について相談にのってもらえることで多大の恩恵を受けていますし、さらに、カナビスを余暇的に使うユーザーに対するオランダの寛容政策のおかげで、禁止法でがんじからめのアメリカにいた時にいた時よりもずっと簡単に「医療用に使うカナビス」を手に入れることができます。


自動車事故

私は、1980年代初頭、学生だったころに自動車事故に巻き込まれたことが原因で現在の症状が始まりました。その時以来、硬膜外ステロイドの注射から非ステロイド坑炎症剤(NSAID)、コデインのようなオピオイドまで、合法的なものはありとあらゆる薬を試してみました。

ですが、これらの治療はいずれも成功することはなく、耐えがたい副作用のせいで中断せざるを得ませんでした。 硬膜外ステロイドは激しい痛みを引き起こして、3度も外来外科の世話を受けなければならないほどで、頻繁に使えば使うほどひどくなってしまいました。そのために、最後には、筋肉痛やひきつけよりも神経過敏症が中心になりました。

また、非ステロイド坑炎症剤は、結局は効果がなく、胃の苦痛と決まり悪いゲップに悩まされました。もちろん、オピオイドは、痛みには十分すぎるほど効果がありましたが、残念ながら、便秘や麻酔薬の酔いで精神的には霧がかかったようになってしまうので長期間続けてはとても使えません。

最後には、違法に入手したカナビスで自己治療をするようになって、1986年には、アメリカでの主治医や多くの専門家を通じてマリノールを手にいれようと試みました。しかし、マリノールを快く処方してくれる人は誰もいませんでした。一人は、繰り返しの要求に腹を立ててカルテに書くことすら拒否したほどでした。


違法カナビスと合法オピオイドの板ばさみ

自分の治療に使うための合法的なマリノールも入手できなくなってからは、違法のカナビスを手に入れて使うる機会があったので、半ば定期的にカナビスを分けてくれる親切な人や、最高品質のカナビスをくれたりする有能な人にたくさん出会うことができました。

カナビスを入手できるようにはなったのですが、やがて、オピオイドを合法的に処方してもらう方法と、違法で処方不可能なカナビスを無理して使うという方法のバランスに悩まされるようになりました。

当然のことながら、カナビスが違法であるという事実は、供給してくれる人にも大きなリスクを背負わせることにもなりますし、いったん供給元の人が逮捕されて投獄されたりするとカナビスの供給も途絶えることにもなります。

これに対して、合法なオピオイドならば、アメリカではどこの薬局でも処方箋で入手できますし、制限といえば店に開店時間があることぐらいしかありません。


コストと品種の問題

カナビスは、供給者のリスクもコストに加えられているのが普通なので、オピオイドよりも値段が高いことも問題でした。普通の保険の効く医者と薬局の医療システムから離れてカナビスを入手するようになると、カナビス栽培者に課せられた余分な「犯罪関税」まで納めなければなくなります。

アメリカでの最後の2年間は、オピオイドのための通常の被保険者の医療コストの最高額に加えて、痛みに効果的に耐えるための違法カナビス治療に1カ月に500ドルも負担していました。

当然、処方オピオイドは常に純度や効力がはっきりと表示されていますが、カナビスの場合は、時には、十分なレベルのTHCなどの活性成分が含まれているものが入手困難になることもあり、さらにコストがかかることもありました。

また、アメリカのカナビス栽培者たちは、多様な品種のカナビスからどれを栽培するか決める際には、必ずしも高品質な医療カナビスを用意しようとするわけではなく、多くの場合は禁止法が生み出す特殊な事情で選択しているのです。

例えば、早く収穫できる種類や室外の栽培に敵した品種などを選ぶわけです。消費者の評判にも影響されます。外形や香が良いとか、酔いに特徴があるとか言う話が広まって、その品種が人気になると同じものを育てようとします。


カナビス入手の苦労

理由はどうあれ、私が暮らしていたアメリカ中西部では、医療価値のあるカナビスを確実に供給してくれるような違法栽培者を探そうとすれば、長く困難な時間を覚悟しなければなりません。上にも書いた通り、例え長くがんばったとしても実りは少なく、いずれ栽培者が逮捕される可能性もあります。

栽培者が遠くに住んでいる場合は、さらに余分な輸送コストも負担しなければなりません。アメリカを離れる前の2年間は、医療価値のある確実なカナビスを安全に入手するために、月に1度は7時間の単独長距離運転を強いられました。

この運転には間接的にカナビスに多額のコストがかかったばかりではなく、背中に問題を抱える身としては肉体的にも厳しいものでした。また、精神的には、いつも誰かが捕まるのではないかという恐怖に悩まされていました。

ここで再び指摘しておきたいのは、アメリカでのカナビスとオピオイドとの違いです。オピオイドは、私のように処方箋があれば、手短などこの薬局でも手に入れることができます。もちろん、薬局は政府が認可しているので、専門的なスタッフもいますし、警察にも守られてもいるわけです。


オランダの医師

オランダのお医者さんは、私がアメリカのカルテを送ってくれるように手続きを終わるとすぐに信用してくれて、1か月に50グラムの医療カナビスの処方箋書いてくれました。この処方箋のおかげで、家族と痛みの治療にカナビスを使うにあたって家族の病歴と自分の病歴をどのように結びつけたらよいのかについて、初めてお医者さんと相談することができました。

例えば、家族の中に重い心臓病や肺の病歴があったので、長期間カナビスを喫煙した場合の心臓への影響について以前から心配していたことを話し合うことができました。アメリカの医師とこの問題を相談したときは、いつもネガティブな話ばかりを強調されて、長期間のカナビス使用が悪い結果をもたらすとばかり言われました。

でも、オランダのお医者さんとは、カナビスのいろいろな摂取方法の長所と欠点について教えてくれました。私は、慢性的な痛みもありますが、ときどき激しい痛みの発作に襲われて体が動かなくなってしまうのですが、私のお医者さんは、通常は、お茶や食べ物にして少量の医療カナビスを摂取するようにすすめてくれました。

この方法だと、比較的長く低レベルのTHCが一定して体内に留まるので、医療効果とカナビスによる酔い(ハイ)のバランスが取りやすく、酔わずに長時間にわたって効果を持続させることができることを知りました。


低レベル経口摂取と緊急時の喫煙の組み合わせ

低レベルのTHCが体内にあっても、ときどきそれを越えて激しい発作が襲ってくることもあります。でもその場合は、医療カナビスを何服か吸えばすぐに収まります。長期の低レベル経口摂取と緊急時の喫煙を組み合わせるテクニックを始めるようになってから18ヵ月が経過しますが、自分の慢性的な痛みの大半に極めて効果的に対処できることがわかりました。

オランダでは、薬局や医薬品会社が製造したチンク液やキャンディーなど経口型の医療カナビスは強い部類の薬として扱われていますが、もっと弱い食用カナビスがあちこちのコーヒーショップで安価に入手できます。

それらの製品は、リクレーショナル用途で繰り返し使うお客さん向けに作られたものですが、中に入っているカナビスの量はお店によって驚くほど一定しているので、分割して使えば低レベルの医療THCとしても十分役に立ちます。

私は、いまでは、酔いを最小限に抑えて最大の医療効果を引き出すことのできる食用カナビスの摂取量を簡単に調整することができます。もちろん、時間があるときには、自分独自にカナビスの量を調整した食用の調合薬を用意することもあります。そうすれば、さらに正確なコントロールができるようになります。


リクレーショナル・カナビスと医療カナビス

医療カナビスを薬局から入手できたらそのほうが安いのですが、オランダがリクレーショナル・カナビスに対して寛容な姿勢を取っていることは、親しい栽培者から効果的なカナビスを直接調達できることを意味しています。

私はアムステルダムに住んでいますが、外出しているときなどでも、嫌がらせをうけることなく、簡単に良いコーヒーショップや公園の静かなベンチを見つけてカナビスを吸うことができます。

オランダではリクレーショナル・カナビスの使用が禁止されていないので、ますます多くの人々がカナビスを医療目的でも使うようになってきています。たとえタバコやカナビスの喫煙が許されていない場所でも、医療カナビスなら許されることすらあります。

実際、私の場合、ランチタイムにジョイントを吸っているのを見た会社の同僚が不適切ではないかと言ってきたことがありますが、痛みの緩和のためにカナビスが必要なことや、オピオイドで抑えて仕事をするよりも、カナビスを吸ってからのほうが良く仕事ができると説明すると完全に分かってくれて苦情はなくなりました。


医療カナビスを先に合法化しようとするアプローチは間違っている

現在世界のほとんど国で医療カナビスを認めることに関しては及び腰ですが、カナビスの医療利用についてはどこよりもオランダが一歩先を行っていることは間違いありません。

これは、カナビスのリクレーショナル使用が容認されていることが、私のように通常の医療ケア・システムの対象から外れていても、簡単に医療用のカナビスを入手できることにつながっているわけで、身体的・精神的な苦痛をもたらしている非科学的で無茶苦茶な禁止法に影響されることなく、トータルに自分の健康に対処できることを示しています。

この状況は、まず医療カナビスを先に合法化してカナビスに対する迷信を打破してから、次にリクレーショナル用途のカナビスの合法化を目指そうとしているアメリカを始めとする多くの国の活動家の考え方が間違っているのではないか、という興味深い疑問を投げかけていると言えます。

考えてみれば、何をおいても保守的な医学関係者が違法な状態のカナビスを医薬品として認めることはないはずで、まずリクレーショナル用途のカナビスを長く容認することでドラッグ戦争の迷信を打破することが先決だと思います。

アーサー・P・レッチェス氏は、生物学的心理学の博士号を持っている。アメリカで20年以上にわたって精神薬理学の研究や教育にたずさわりってから、オランダの製薬会社に移った後、現在は、EUの関係の会社で医薬品解説書の翻訳にたずさわっている。