従来の見積よりはるかに多い

スエーデンのカナビス消費量

Source: The Local
Pub date: June 11, 2007
Subj: More cannabis in Sweden than previously thought
Author: James Savage
http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=12608


スエーデンの行政当局は、新しい報告書で、これまで国内のカナビス市場をあまりに過小評価し過ぎていたと発表した。以前には国内のカナビス販売量を年3トンと見積もってきたが、実際には25〜30トンになっているとしている。

この新しい数字は国立犯罪調査局の発表によるもので、従来の統計が所在の知られたカナビス・ユーザーの消費量をもとに見積もられていたのに対して、今回は、警察、検察、税関、沿岸警備、法医学などの専門家の情報も取り入れてより広範囲に調査を行っている。

報告書によると、スエーデンにカナビスを密輸しているのは約140グループで、警察と税関はここ数年で19の密輸組織を摘発している。

また、スエーデンのカナビス消費量の上昇には、国内で栽培されたカナビスも大きく関与している。ストックホルム、ヨーテボリ、ウプサラ、ハルムスタッドなどの大都市では大規模な室内栽培場も見付かっている。

国立犯罪調査局のジョアン・ニルソン・プロジェクトリーダーは、「スエーデンで流通しているカナビスの量は、以前考えられていたよりもずっと多い」 との懸念を示し、この問題に立ち向かうために主要道路での自動車のチェックを系統的に実施したいと語っている。

2006年9月、 国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、『スエーデンのドラッグ政策の勝利』 というタイトルの報告書を発表し、「スエーデンの厳しいドラッグ政策と低いドラッグ使用率の間には明確な関連があり注目に値する」 と絶賛している。

しかし、今回、カナビスの使用量が従来考えられていたよりも10倍も多いことが明らかになって、UNODCの評価は額面通りには受け取れないことが明確になった。また、以前から不思議だったスエーデンのドラッグ政策の実態が露出してきたような印象も受ける。

不思議の一つは、スエーデンのドラッグ使用率がヨーロッパ各国にくらべて非常に低いのに対してドラッグ関連の死亡者が多いことで、何故このような現象が起こるのか納得のできる説明に出会わなかった。

また、ゼロ・トレランス政策で不審者にはすぐにドラッグテストをするという厳しさはあるものの、実際の カナビス関連の罰則 については最高3年の懲役、重大性が少ない場合は最高6ヵ月か罰金、軽微の所持では通常は罰金で、アメリカなどに比較すれば刑罰は決して厳しくない。それなのに何故スエーデンは 「ドラッグには厳しい」 と言われているのか?


An Analysis of UK Drug Policy, 2007


ヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)の 2005年の報告書 では、スエーデンで押収されるカナビスの80%がモロッコ産の密輸ハシシだとされていたが、今回の報告で、国内で栽培されたバッズも相当量出回っていることが明らかになり、カナビスがより身近になっている様子がうかがえる。

また、これまでのドラッグ調査がかなりいい加減に行われていた実態が浮かび上がったことで、カナビス以外のドラッグの使用率も実際には言われているよりも相当高いと考えられる。UNODCの報告書によれば、スエーデンのドラッグによる死亡率は、他国に比較してアンフェタミンの割合が高くヘロインと同じ程度になっているが、欧米でのアンフェタミンの使用は最近急上昇しており、スエーデンも例外ではないのかもしれない。

ドラッグ政策の研究者として名高いアムステルダム大学のピーター・コーエン教授は、UNODCの報告書について大変興味深い レポート を書いている。

スエーデンのドラッグ関連死亡者は、2000年が296人、2002年が425人で、人口900万足らずの国としては非常に高く、1日の交通事故死亡者1.5人に匹敵する1.2人になっている。このように高くなっているのは、ドラッグにオーバードーズしても、ソシャルワーカーや警察に発覚することを恐れて救急車を呼ぶのをためらうことが原因になっているという。

こうした現実を、ストックホルム大学のテッド・ゴールドバーグ教授の言葉を借りて、「スエーデンの現在のドラッグ政策は生命を救うのではなく、人々を殺している」 と表現している。

また、コーエン教授は、スエーデンのドラッグ使用率の低さについては、厳格なドラッグ政策の関連しているというよりも、歴史的に禁酒指向の文化でアルコールやタバコや医薬品の使用率が低いことや、社会的不公平や差別が少なく失業率も低く、社会福祉のレベルが高いことが関連していると指摘している。

つまり、スエーデンのドラッグ政策は実際には注目に値するほどのものではなく、たまたまドラッグ使用率が歴史的に低いことに加えて、調査実態が甘いことが重なって現状が隠されていたということなのではないか? 

スエーデンは社会福祉の高さやノーベル賞の授与国であることから多くの称讃を受けているが、その優等生ぶりが、実際のドラッグ政策の良し悪しとは関係なく、自らを 「ドラッグ禁止法のバチカン」 に仕立てているのかもしれない。

また、イギリスの中毒専門医師 アンドリュウ・バイン は、「ドラッグフリー社会というスエーデンの目標が、国民に対するタチの悪い言い訳になっている」 として、 イギリス医学ジャーナルのコメント で次のように指摘している。

「リスボンにあるヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMC)の報告書の数字を見れば、ヨーロッパの他の多くの国々よりも、C型肝炎の率が高いことや、アルコール問題の巨大さ、アンフェタミンの率の高さなどがわかる。スエーデンのドラッグへのアプローチは抑圧的で費用をかけている割には、ほとんど効果を上げていない。また、スエーデンはアメリカとともに、西側諸国では、ドラッグ・ユーザーに対する注射針の交換サービスを実施していない最後の国になっている。これがHIVやバクティア感染の原因になっいる。その他にも防ぎうる問題も多く、高額の負担だけが国民に重くのしかかっている。」