イギリスのカナビス分類見直しは

アルコール政策失敗を隠す煙幕?


Pub date: 15 Jan 2008
Arranged by Dau, Cannabis Study House
From Cannazine
Alcohol Abuse Outstrips Cannabis by 16-1 under Labour Government
http://cannazine.co.uk/content/view/3372/1585/


カナビスでの来院者、ダウングレード後50%増で週500人

イギリス保健省が先頃開示したデータによると、カナビスの使用が原因で病院で治療を受けた成人の数が、カナビスがダウングレードされた2004-05年1万1057人だったものが、2006-07年ではそれよりも50%増加して1万6685人になっている。また、未成年者の来院者数は前年度の8014人から16%増えて9259人になっている。

この1年間の成人と未成年の合計は2万5944人で、カナビスが原因で1週間あたり約500人が病院で治療を受けていることになる。

保健省のこうした発表を受けて、マスコミでは年明けから、「週500人」 と 「50%の増加」 という数字を大きく取り上げ、政府が計画しているカナビスのB分類への罰則強化を後押しする論調が目立った。

明らかに政府やマスコミはこの数字を政治ゲームに利用しようとしているが、しかし、保健省から同時に発表された アルコールのデータ を見れば、カナビスをはるかに凌ぐ絶望的な数字が並んでおり、イギリス政府はこうした事実から人々の目を逸らさせるためにカナビスの再分類問題を煙幕として使っているのではないかとさえ思えてくる。


アルコールの来院者は週8400人

この1年間でアルコールが原因で病院の治療を受けた人はイングランドだけで合計44万5188人。1週間当たりでは8400人、1日当たりで1200人になっている。内訳は、16万815人が酔っ払いによる怪我などで、未成年者の胃の洗浄措置も含まれている。残りの28万4373人は、肝硬変などのアルコール関連の病気によるものになっている。この合計数は10年前の20万9086人の2倍以上の増加となっている。

また、飲酒年齢18才未満の人数も2000年以降40%以上増加している。原因とすれば、肝機能障害、アルコールの影響下での喧嘩、胃の洗浄措置などとなっており、いわゆるムチャ飲み(binge drinking)が増えていることを示している。2003年にヨーロッパ全域を対象に実施された 調査 によると、イギリスの15才と16才の若者のおよそ3人に1人が、最近1ヶ月間に最低3回以上ムチャ飲みをしている。


アルコールはカナビスの17倍

確かに来院者数の増加率だけをみるとカナビスのほうか高くなっているが、問題の本質はその母数にある。カナビスの2万5944人に比較すれば、アルコールの44万5188人は17倍の規模になっている。つまり、同じ1%でも実数は17倍も違うわけで、比率による比較は意味をなさない。

また、来院の理由についても全く違う。カナビスの場合は、ダウングレード後に 使用率が下がっている のに逆に来院者数が増えているが、これは主に、投獄されないかわりに病院でのリハビリを命じられるケースが増えたことや、ドラッグ治療対策が改善されたことによるもので、必ずしもカナビスそももので障害を受ける人が増えたことを意味していない。(週500人という数字の中には、治療ではなく単なる相談も含まれているという 指摘 もある。)

実際にどのような障害で来院しているかについては、例えば、アムステルダムの病院の統計では、カナビスによる来院者の内訳は、気分の悪化と不安が44%、動悸が20%、吐き気が15%、血圧や運動神経の低下による影響で転倒して怪我したのが14%、精神病的な症状が認められたのは4%となっており、治療としても大半が落ち着いた場所でゆっくり休ませる程度で済んでいる。

これに対してアルコールの来院理由は、暴力による怪我や胃の洗浄措置、肝硬変などの疾患などで治療も大掛かりになっている。さらにイギリス統計局のデータによると、アルコール疾患による死亡者数は2004年には8221人になっているが、カナビス疾患が理由で死んだ人はいない。


根拠が薄いカナビス再分類議論

2007年6月末に発足したゴードン・ブラウン政権は、ブレア前政権との違いを強調するために、就任直後に、ギャンブルの規制緩和の見直し、2005年11月に施行されたアルコールの24時以降の販売規制撤廃の見直し、カナビスの分類見直し、の3政策を掲げた。

カナビスをB分類に戻す理由としては、現在の状態が若者に悪いメッセージを送っていること、THCの効力が高い危険なスカンクが蔓延して若者の精神病が増えていることを上げているが、見直しの検討を求めた諮問委員会への 要請書簡 は次のように書かれている。

「統計では、2004年1月のダウングレード後にカナビスの使用が著しく減ってきていることが示されていますが、現在、カナビス使用による精神の健康への影響が社会の大きな関心事になっています。特にスカンクとして一般に知られている効力についての懸念は切実なものになっています。これに加えて、ニュージーランドとオランダで行われた長期研究では、カナビスの使用と精神病の関連が指摘されています。」

しかしながら、ここで述べられているニュージーランドとオランダの研究については、既に2005年の見直し諮問委員会で検証済みであり、また、スカンクの問題については専門家たちから さまざまな疑問 が出されている。このように、そもそも要請内容自体には十分な説得力が備わっていない。

この要請書簡が出された直後には、「カナビスを吸えば、精神病のリスクが40%増える」 とするランセットの論文も発表されて勢いづいたが、この論文は過去の研究をメタ分析したもので 目新しい結果はなく、論文に付属した コメント よれば、イギリスにおけるカナビスによる統合失調症の年間発症者数は800人と計算している。この数は、2007年6月に保健相が発表した カナビス関連の精神科来院者数 の946人と似ている。来院者数全体でみれば約4%で、上にあげたオランダの例とほぼ同じになっている。

こうした数字は、300万人以上と言われるイギリスのカナビス使用者数に比較すれば ごく僅かに 過ぎず、諮問委員会が数ヶ月後に提出することになっている答申では、B分類に戻すには科学的な根拠が薄弱過ぎるという結論を出す公算が強い。


放棄された(?)アルコール対策

一方、2005年に深夜12時以降のアルコールの販売が許可されてから、深夜のアルコール関連の救急対応が3倍に増えたと 報道 されている。

イギリス内科医師会のイアン・ギルモア会長も、「アルコール関連の健康被害をなくすためと称して導入された現在の法律は目的を果していません。われわれは、以前から、現実の証拠に基づいた価格と可用性のコントロールでアルコール乱用による健康被害を軽減するように求めてきたのですが、今のやり方は、特に若者の飲酒防止には何の役にたっていません」 と語っている。

だが2008年早々、ブラウン政権は、アルコールの販売規制撤廃の見直をしないことにしたと 発表 している。その理由としては、法律の施行後の悪影響はほとんど見られず、救急来院者数も24時以降の来院者数は増えているものの、以前のピークだった23時は減っていることをあげている。


背景には支持率の急落

しかしながら、この決定の背景には、ブラウン首相の労働党の支持率が急落していることが大きく影響しているのではないかと考えられる。年末に実施された 世論調査 では労働党の支持率は31%で、9月に最高を記録した43%から急激に支持率を失ってきている。その最大の原因はブラウン首相の優柔不断さにあるとされ、首相としての役目を十分に果していないと答えている人は 58% に達している。

こうした状況に対して、ブラウン首相はアルコール政策を放棄することで人気に挽回をはかり、その代わりにカナビスの再分類を声高に叫ぶことでアルコール問題から目をそらしてバランスを取ろうとしているようにも見える。

本当にカナビスをB分類に戻すための根拠が十分にあるのであれば、単に諮問委員会にまかせておけば済むはずだが、実際には、委員会を無視してアンケート調査をやったり、マスコミの報道を煽って分類見直しの世論を誘導したり、委員会の決定がどうであれB分類に戻すと発言したりして委員会に圧力をかけ続けている。こうしたことは、本当は分類見直し政策に自信がないことを示している。

だが、分類をどうするかについて最終決定する権限は内務大臣にある。現在のジャッキー・スミス大臣は若い頃カナビスを吸っていたことを認めているが、そうした弱味を持つ立場上、諮問委員会の答申を無視してでもB分類に戻す決定を下す公算が大きい。しかし、こうした強引さはさらに内閣に対する信頼を損ない、支持率の低下をもたらすだろう。

2006年1月には、当時のチャールス・クラーク内務大臣も諮問委員会の 答申を無視して分類を戻そうとした が、諮問委員会の委員たちが 政治目的で戻すなら辞任すると迫り、最終的には大臣も答申を認めて決着している。