イギリス内務省

カナビスの効力に関するゴミ研究


Home Office Cannabis Potency Study 2008

Source: UKCIA in News and comment
Pub date: 18 January 2009
Home Office Cannabis potency study
http://ukcia.org/wordpress/?p=49


イギリスでは、1月の最終週からカナビスの法的区分が正式にCからB分類へとアップグレードされる。だが、他のB分類のドラッグの扱いとは違って、所持による初犯は警告、再犯は80ポンドの罰金、それ以降は逮捕という スリーストライク制 が適応されることになっている。議会では、初犯でも80ポンドのスポット罰金が提案されていたが、手続き的な足並みが揃わず決定は後日に持ち越された。

この特別措置については、アップグレードというよりも実質的にはダウングレードと見る向きもある。しかし、法の「強化」は、現状に比較して新たに何がどう変わるのかを見なければならない。現在、正式に 「Bスペシャル」 に変わるのを目前にして、これまでの状態を振り返えりながら将来を考える良い機会が訪れている。


コントロールと言うにはほど遠い

とは言っても、政府が国内のカナビス取引について何を把握しているかを確かめてみれば、実際にはほとんど何も知らないことがわかる。政府は、ドラッグ・シーンをコントロールしていると胸を張って見せるが、現実はほど遠い。

当然のことながら、適正にコントロールされた医薬品は厳格な製造基準を満たしていることが要求される。従って、当局は、販売されている医薬品についてはその内容を正確に把握していなければならない。その点では、違法ドラッグはそうなってはおらず、いかなる意味においてもコントロールされているとは言い難い。

しかしながら、少なくともカナビスのように広く一般化した製品については、その効力や形態などについて適切な監視が行われている必要があるが、だが実際には、カナビスのように広く行き渡ったドラッグでさえ、それが違法なものであればほとんど何も行われていない。

そんな中で、1月中旬には、政府の依頼を受けたドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)が 『内務省、カナビス効力の研究2008』 (Home Office Cannabis Poyency Study 2008) と題する報告書を発表している。

こうした例はあまりないが、この内務省の研究は、少なくとも何がコントロールされていないかについて実際に調べる機会を与えてくれる。


不適切なサンプルは、問題を表す尺度にはならない

この研究における最も基本的な問題は、サンプルをどのように集めたかにある。どのような研究にしろ厳格に実施しようとすれば、サンプルを集める方法が何にも増して重要になる。全体を適正に代表するサンプルでない限りは、結果は無意味なものになってしまうからだ。

しかし、ACMDには、警察がカナビス所持違反者から押収したサンプルに頼るしか選択肢がなく、結局はこの重要な前提条件を無視する形になっている。報告書には、データの収集について次のように書かれている。
サンプルは毎回の押収時に集められたものだが、そのサンプル数は、「カナビス問題」 を表す尺度にはならないと思われる。
つまり、ある地域の押収サンプル数は、その地域のカナビス取引の実態を代表したものではないということになる。

確かに、サンプルの収集方法に何らかの正当性があれば、当該地域の「カナビス問題」を完全に代表している可能性もある。しかし、そうでなければデータは唯のがらくたに過ぎなくなる。報告書では次のように書いてその理由を説明している。
強制捜査作戦においては、一部の執行機関のリソースは、特定指定大都市の作戦指揮室か、あるいは複数の機関が集合したいくつかのセンターの一つから提供されるが、そこでは、内部のロジスティックスに問題を抱えている場合もあれば、期間中に提供されたすべてのリソースを最大限に利用しようとするところもあり、その取り組みは一様ではない。

ゴミを入れると、ゴミが出てくる

従って、収集されたデータの質はとんなに贔屓目にみても上質とは言えない。どのように統計分析したところで、実際には、「ゴミを入れると、ゴミが出てくる」(GIGO、garbage in, garbage out)という警句から逃れることはできない。

この報告書のデータ収集にあたっては、単純だか非常に重要な問題が横たわっている。

  • たまたま警察が捕まえた人のデータに頼っているために、その人のタイプや生活環境は、その地域のカナビス・ユーザーの状況を代表しているとは言えない。

  • サンプルのいくつかは同じ地区で同じ時間に収集されているが、このことはそれらのサンプルが同じソースのものである可能性がある。一方で、別の地域の別のユーザーについては何も調べられていない可能性もある。

データの収集方法について専門的に詳しい人ならばさらに詳細な批判をするに違いないが、いずれにしても科学的な研究であれば、その研究の弱点について言及してそれを特定することで、どのようにすれば結果が歪められないようにするか考えるのが当然のことと言える。その点では、内務省のこの研究では何も行われておらず、深刻な欠点がそのまま露わに残されている。

収集されたサンプルのデータ解析結果には次のように書かれている。
ラボで最初に行われるサンプルの分類分けの結果は、ハーバル・カナビスが80.8%で、ハシシは15.3%だった。残りの3.9%については、カナビスと特定できないか、またはカナビスではなかった。
ということは、カナビス所持の疑いで警告を受けた人のおよそ4%が、実際にはカナビスを所持していなかったことになる? 何とも恐ろしい現実だ。


「効力」 の定義

当然のことながら、データの分析を行うのに当たっては、キーとなる用語が定義されている必要がある。報告書の定義は次のように書かれている。
カナビスの効力(potency)は、Δ9-テトラヒドロカナビノール(THC)の濃度(%)で定義される。
これは、部分的にも全体的にも効力の定義としては受け入れがたい。押収されたサンプルの全体としてのTHCの 「濃度」 とは一体何を意味しているのだろうか? 

もともとハーバル・カナビスは多量の水分や植物の組織を含んでいるために、その重量は簡単に変化してしまう。また、報告書には、サンプルの測定に当たって、植物の部位(花、葉、柄など)でもTHC濃度が非常に変化するために、全体を細かく均質化してからエタノールでオイル成分を抽出したと書かれている。

濃度は、そのオイル資料をガスクマトグラフィーと質量分析器で測定して、THCの全濃度(THCとTHC酸)とCBD(カナビディオール)濃度を割り出し、外部標準と比較して最終濃度を決定したとしている。従って、濃度(%)は、抽出したオイル分に対する重量比になっている。

確かにこの方法は一般的なものだが、サンプルからTHCを含んだオイル分が分離されて取り出されてしまうので、実際にはTHCの絶対量が少ないサンプルであってもも高い濃度を示す場合もある。

しかし報告書では、「効力(potency)」 と 「強さ(strength)」 の関係については何も言及しておらず、何の説明もなされていない点にも注意しなければならない。

THCの濃度を示す効力は、オイル分の中に含まれるTHCの量を示しているだけで、他にどのような成分が入っているかには関係していない。しかし、実際にカナビスを使う場合には、他の成分との関係で体の感じる強さや感覚が違ってくる。

このあたりは単独の成分だけで強さが決まってしまう他のドラッグと全く違っている。もしカナビスの良いの状態がTHCの濃度だけで決まってしまうのであれば、カナビスは今ほど多くは使われることはなかっただろう。

興味深いことに、この報告書では、THCの他にもCBDの濃度についても初めて調査を行っている。だが、過去の記録がないために濃度が時代とともにどのように変化してきたかについては何も触れていない。


結果は?


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シンセミラ・サンプルの平均THC濃度(効力)は16.2%(範囲は4.1〜46%)で、効力の中央値は15.0%だった。
シンセミラは青の棒グラフで示されているが、その範囲が4.1%から46%になっていることはほとんど信じがたい。もし、これが本当ならば、カナビスが取引されるときに効力などは全く関心が持たれていないことになってしまうが、吸った時にどのような状態になるのか予想がつかなくなって恐ろしいことになってしまう。

実際問題として、天然のカナビスで46%という濃度はあまりにも高過ぎる。また、分布曲線は濃度の最も高い付近で再び跳ね上がっているが、不自然で説明が付かない。データに不備がある可能性が一番高いが、高濃度シンセミラにさらに効力の強いハシシ・オイルなどが塗りつけられていることも考えられる。

「伝統的な」輸入カナビス(緑グラフ)の結果については、サンプル数が非常に少ないので取り立てて注目する必要はないが、ハシシのグラフ(黄色)についてはいくつか注目すべき特徴がある。
ハシシの平均効力は5.9%(範囲は1.3〜27.8%)で、中央値は5.0%になっている。この値は典型的なもので、ここ何年間も変わっていない。
ハシシの分布曲線はほぼノーマルな形を保っている。よく見ると強いほうに飛び出しているデータもいくつかあるが、これは、家庭内栽培したカナビスから精製したアイソレータ・ハシシやポルーン・ハシシだとすれば説明できる。


CBDのレベル

またハシシには、どのようなタイプのカナビスからでも作るとができるという特徴がある。ことために伝統的に、ハーバル・カナビスとして使うのには効力が弱過ぎる場合も精製することで何とか効力のあるハシシにしてきた。「オールド・スクール・ハシシ」や「グッド・オールド・ロッキー」、「レブ」なとと呼ばれた伝説的なハシシの効力が低かったのはそのためだと言える。

また、今回の研究ではTHCの効力の低いカナビスほどCBDの濃度が高くなる傾向が示されているが、そのこともハシシの強さに影響していると思われる。
ハシシの平均CBD濃度は3.5%(範囲は0.1〜7.3%)になっているが、ハーバル・カナビスのCBD濃度はほぼどのケースでも0.1%以下になっている。… また、ハシシのTHCとCBDの間には弱いながらも統計的には有意な関係(r = 0.48; N = 112; P < 0.001)が見られる。
したがってこの研究では、CBDの濃度は、ある程度THCの濃度を反映したものになっているが、このことは、サンプルのハシシが同じ地域(たぶんモロッコ)で生産されたもので、同じプロファイルを持っていることが関係している可能性がある。しかし、最終的には増量するためにいろいろなものが混ぜられてTHC濃度も変化する。
次の図では、ハイバル・カナビスの中で3個のサンプルのみに例外的に高いCBD値が見られるが、その理由についてははっきりしない。


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もちろん、THCにしろCBDにしろ、値が高い植物についてはデータに不備がある可能性が最も高い。

以上のように、政府はコントロールしていると言っているが、もの基になっているデータはことほど虚ろで頼りない。

イギリスのカナビス産業やその製品についてわれわれの知識は限られている。最大限に好意的に見ても、良いなどとは言えないが、禁止法の下ではよくやっているとも言える。もちろん、カナビスが合法化されて適正に規制管理されるようになれば、その製品がどこでどのように製造されて、どのような成分構成になっているのかを正確に知ることができるようになる。

ジャッキー・スミス大臣は、カナビスを厳罰化しなければならない根拠として、現在のカナビスが精神への悪影響が大きい「スカンク」で、それが市場の8割を占めるようになって 危険が飛躍的に増大 しているからだと盛んに力説している。

しかし、今回発表されたACMDの報告書に掲載されているTHC含有量の調査とオランダの調査を比較してみると、イギリスのシンセミラのTHC含有量は、オランダの18%よりも低いことが分かる。

もし、イギリスのスカンクで精神病になるのなら、オランダはそれ以上に精神病になった人が多くなるはずだが、そのような報告は全くない。また、オランダ政府の医療カナビスのベドローカンはTHCが18%で、とても医療には使えないことになるが、実際には精神病の問題などは出てきていない。こうしたことから、スミス大臣の主張は全く根拠を欠いていることがわかる。

2008年6月には、アメリカでも、カナビスの効力を監視しているミシシッピー大学がTHCレベルが記録的に上昇していると発表している。

しかしながら、全体平均が増えたのは、アメリカ市場で大部分を占める国内栽培のカナビスの平均THCが増えたわけではなく、調査対象となった押収外国産のサンプル数が70%に増えたためだということが明らかになっている

押収したカナビスをサンプルにすることは、実際の市場の構成を反映しておらず、アメリカのデータも捜査の事情が大きく影響していることに注意しなければならない。イギリスでもアメリカでも、「効力が増しているから危険だ」 という禁止論者の主張にはまやかしが含まれている。

今回の研究でとくに注目されるのは、THCの濃度だけではなくCBDの濃度も調べている点にある。しかし、今まで、このような調査はほとんど行われたことがないので、いろいろな問題も隠されているように思われる。

結果では、シンセミラのCBD濃度はほぼどのケースでも0.1%以下になっているが、シンセミラの多くを占めるインディーカ品種は一般にCBD濃度が高いことが知られており、それが結果に反映していないとすれば、測定の方法に問題がある可能性もある。

THCの気化温度が約200℃であることはよく知られているが、CBDの気化温度が66℃であることはあまり知られていない。つまり、エタノール(気化温度は78℃)でカナビスの成分を抽出すると、CBDが気化して失われる可能性がある。

また、分析に使われているガスクロマトグラフィーでは、サンプルをガス化して蒸気にするために加熱する必要があるが、低温で気化するCBDはそれだけ化学変化を受けやすいとも考えられる。このような状態を避けるためには、室温で動作する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使わなければならないが、実際にはほとんどがガスクロマトグラフィーが使われている。

オランダのTHCの調査 は、コーヒーショップで定点観測が行われているために、警察の押収活動の影響はなく、市場全体の様子を適切に表している。


Nationale Drug Monitor Jaarbericht 2007  (Trinbos)


今回のイギリスのデータと比較して非常に興味深いのは、ハシシについては両国とも産地がモロッコが主体になっている点では同じでありながらも、最終的には全く違った効力になっていることで、コーヒーショップのないイギリスのほうが、異物混入による増量などカナビス市場が野放し状態になっていることがわかる。