統合失調症は5000人に一人

カナビスの健康リスクは増えてはいない

Source: BBC Newsbeat
Pub date: 27 Jan 2009
Cannabis health risk 'not rising'
Author: Jim Reed, Newsbeat reporter
http://news.bbc.co.uk/newsbeat/hi/health/newsid_7852000/7852776.stm


イギリスではドラッグ・スペシャリストのトップの一人と認められている研究者のよると、カナビスを常用していても統合失調症のような疾患にまで発展する人は5000人に一人に過ぎないと言う。

また、政府のドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)で議長を務めているデビッド・ナット教授も、ニュースビートのインタビューにカナビス喫煙による精神的健康のリスクはアルコールよりも大きくはないと話している。

「われわれは、過去30年間に発表されたすべての論文を読んで、報告書を3回も作成しましたが、リスクが増大しているとは全く考えていません。エビデンスを見ると、その間にカナビスの使用はきわめて増加していますが、統合失調症はむしろ減少しているのです。」

「おそらく間違いなく、アルコールのほうがカナビスよりも依存症になりやすく、ビタミンが欠乏して脳に障害を起こします。また、禁断症状は精神病を引き起こすこともあります。全体とすれば、アルコールとカナビスの精神への健康リスクは、それほど違ったものではないのです。」


精神の健康への影響

イギリス政府は、今週、カナビスの法的区分ををC分類からB分類にアップグレードしたが、これは、C分類に据え置くべきだとするACMDの勧告を無視するもので、その理由として、精神の健康へのダメージを示すエビデンスがたくさん出てきていることを指摘している。

カナビスで起こる酔いの効果は、幻覚やパラノイド、異様な妄想、話や思考の混乱などが起こる統合失調症の症状と非常に似ているところがある。 ケントに住む29才のアレック・ヤコブさんは、20代前半に病気になる前はヘビーなカナビス・ユーザーだった。

「実際にはいない人の声が聞こえたり、不安になったり、落ち込んだりしました。今では、間違いなくカナビスがその原因の一部になっていたと思っています。多量のスカンクを吸っていましたが、それで精神病になったのです。」

「21才になるまでには、人と一緒にいることができなくなっていました。カナビスを吸っても良いことは何もなくなって、全く吸えなくなってしまいました。でも、その影響は間違いなく今でも続いています。うつ症状や不安になったりして、罠にかかったような感じがするのです。」

しかしながら、ナット教授は、カナビスの使用と深刻な精神の健康問題の関連は、「あったとしても弱い」 と言う。また、最新の研究によると、政府は、統合失調症の発生を1件防止するために、5000人の男性と1万2000人の女性にカナビスを止めさせるようとしていることになるとも言う。

「カナビスを使うことは、ごくわずかな人にとっては崖っぷちを歩くようなものですが、大半の人にとっては、崖っぷちなどなく実際にはリスクになりません。」


重大な犯罪との関連

統合失調症の人は、単にうつ症状などの問題に苦しむことがほとんどだが、極端な場合には他人に対して危険な行動を起こすこともある。

マーク・ミドルブルック(27)は、ガールフレンドのスティビー・バートンさんが自分を殺そうと企んでいると信じ込んで、逆に刺し殺し、昨年終身刑を言い渡された。裁判では、カナビスを吸うのを止めるように医師から言われていたにもかかわらず、強引に無視して吸い続けて、精神状態がさらに悪くなってしまったと言い訳した。

ステービーの母親で、精神科の看護師だったジャッキーさんは、ニュースビートのインタビューに、「娘の死をカナビスのせいにするつもりはありません」 と答えている。

「何度の言いましたが、カナビスが娘を殺したのではなく、マークが殺したのです。私は、何年もカナビスを吸っている医師や専門家、看護師をたくさん知っていますが、犯罪を犯したりはしていません。」

「カナビスを吸うことは悪いことだといって、単に首を横に振って済ませるようなことでは良くありません。人は事実を知ることができなければなりません。今日では、カナビスの使用について、良い情報から悪い情報までたくさんあるのです。」

「カナビスをC分類にダウングレードした時に、政府やマスコミはどのような情報を提供したのでしょうか? 十分に提供していないにもかかわらず、ことはB分類に戻すと言うのです。自分たちが何をやっているのかさえ分かっていないのです。」

「もう、魔女狩りは終止符を打つべきです。すべてのカナビス・ユーザーを非難するようなことはやめるべきです。どちらも間違っています。大人のアプローチが必要なのです。そのためには教育が重要です。」

イギリス政府は、今回のカナビスのB分類へのアップグレードについて、「スカンク」と呼ばれる強力なカナビスの蔓延と、それが引き起こす精神病に重大な懸念があり、続く次世代を守るために行ったと説明している。つまり、主要な問題は、スカンクと精神病の2つあることになる。

2008年4月のはじめに開かれたACMDの会合では、カナビスをC分類から動かすのには十分な科学的根拠がないとする意見に23人の委員のうち20人が賛成し、分類をC分類に据え置き再分類しないように勧告している。今回の政府の決定はそれを無視したもので、科学的ではなく、政治的な決定と言える。

カナビスが精神病を引き起こすかどうかについては、この記事にもあるように、研究がすすめばすすむほど否定的な見方が強まってきている。

この記事の冒頭では、ドラッグ・スペシャリストのトップの一人と認められている研究者の見解が紹介されているが、この人は、おそらくスタンレー・ザミット教授のことではないかと思われる。

ザミット教授は、2002年に発表された 1969年スエーデン新兵における自己申告カナビス使用と精神病のリスク、病歴コホート研究 や2007年7月にランセットに発表された カナビスの使用と精神疾患および感情障害出現のリスク、総合的検証 を主導したことでも有名で、どちらかと言えば、カナビスと精神病には強い関係があるというスタンスの研究が主だった。

ブラウン政権の分類見直し政策の発表 直後に報告されたランセット論文では、カナビス・ユーザーの精神病のリスクが 1.4倍と結論付けてカナビス反対派を熱狂 させた。

しかし、当初よりデータの収集や分析に不十分な点があることを認めて、「われわれの立場から社会に何らかのアドバイスをしようと思えば… その時に利用できる最善のエビデンスを使わざるを得ない」 とも語っていた。

その後、COMT遺伝子がカナビスによる統合失調症発症に関与しており、カナビス・ユーザーの4人に1人は他の3人よりも10倍も精神病になりやすいとする 2005年の研究 の追認調査を行い、COMT遺伝子は発症リスクに無関係 だとする研究を発表している。

さらに、自分が筆頭研究者になって2008年11月に発表した論文では、前回のランセット論文の根本的な見直しを行って、「精神病の原因として特にカナビスが強く関連していると信ずべき理由は低い」 と結論づけるに至っている。

最新研究 カナビスと精神病の関係は弱い  (2008.11.23)

また、2008年11月に発表されたデンマークの 研究 では、カナビス誘発精神病(カナビス精神病)で治療をうけた609人と、統合失調症で治療をうけた6476人の家族歴を比較することによって遺伝的違いを調べたところ、親や兄弟など第一度近親者で統合失調症になった人のいる割合は、カナビス誘発精神病で治療を受けた人でも、実際に統合失笑症の治療を受けた人でも変わりないことを見出している。

この結果について研究者たちは、「カナビス誘発精神病は、臨床的に統合失調症と区別するよりも、統合失調症の初期の兆候が現れたと考えたほうが妥当性がある」と結論付けている。

つまり、カナビスがカナビス精神病を引き起こし、それが統合失調症は発症したように見えるのは、もともと内在している統合失調症の初期的な症状がカナビスによって表面に出てきただけだと考えられるとしている。つまり、統合失調症を発症する人は、カナビスを使っていたかどうかは関係ないということになる。

カナビスと統合失調症の新たな関係、カナビスで統合失調症の初期兆候が出現  (2008.11.6)

デンマークのこのチームは2005年12月にも 『カナビス誘発精神病からその後の統合失調症へと続く連続的疾患:535症例の分析』 という研究を発表している。

この研究は、カナビスで何らかの精神病的異常で病院を訪れた患者について分析したもので、そのうち約半数(44.5%)がその後6年以内に統合失調症を発症したとしている。この数字は病院内に限った事例分析から導き出されたもので、カナビス・ユーザー全体を対象にしたものではないが、数字が大きくインパクトが強いことからマスコミは盛んに報道した。

この時期は、ちょうどチャールズ・クラーク大臣(当時)によるカナビスの分類の見直問題が加熱していたこともあって、いつのまにか 「カナビス使用者の約半数が統合失調症になる」 という滅茶苦茶な噂にまでなって広がった。しかし、新しい研究ではそれらがごく自然に説明されている。

また、社会全体のカナビスの使用量が増えても統合失調症患者の数が増えていないという指摘に対しても、このデンマーク・モデルでは、統合失調症発症前にカナビスによってその初期的な兆候が誘発されただけなので、統合失調症患者の数とカナビスの使用は無関係であると説明することができる。現在のところ、このデンマーク・モデルが最も説得力を持ってすべてを説明できる。

イギリス政府の主張する高効力スカンク問題についても、ほとんど根拠がない。

まず、効力が強くなったから危険が増したという主張については、それを実証した研究はない。確かに、普通の医薬品のようにいままでの倍の量を飲めば危険になることもあるが、カナビスの場合は、吸いながら摂取量を簡単に自己調整できるので効力が強ければその分だけ吸う必要量が少なくなるだけなので、普通の医薬品のアナロジーで考えること自体が間違っている。

また、現在のカナビスの効力が飛躍的に増しているという指摘に対しては、報告書 に、サンプルが警察の押収で集められたもので、地域毎の押収サンプル数は、その地域のカナビス取引の実態を代表したものにはなっていないと書かれており、サンプルが偏っている。

さらに、普通、天然の植物でTHC濃度が30%を越えるものがほとんど見られないが、この報告書では最大が46%で、しかも濃度の高いサンプル数のほうが不自然に多くなっている。こうした偏ったデータでは、高効力スカンクが増えていると結論することすらできない。

イギリス内務省 カナビスの効力に関するゴミ研究  (2009.1.18)