カナビス喫煙が睾丸癌を引き起こす??

毎度お馴染みのメディア・ヒステリー

Source: NORML Blog
Pub date: 10 Feb 2009
Media Hysterics About Supposed Cancer Link Nothing New
Author: Paul Armentano, NORML Deputy Director
http://blog.norml.org/2009/02/10/media-hysterics-about-supposed-cancer-link-nothing-new/


政治的な動きも少なくいつも通りのニュースの少ない週末だったが、グーグル・ニュースによると、週が開けると全国の750以上のメディア支局が、『カナビス喫煙が睾丸癌を引き起こす』 という恐ろしげなニュースを一斉に伝えた。だが、メディアが熱狂するときには総じて信頼性が疑わしいことも多いが、この刺激的なヘッドラインは真実なのだろうか? 

もとになった研究は、シアトルのハッチソン癌センターの研究チームが行った調査 で、369人の睾丸生殖細胞腫瘍(TGCT)の男性患者と健常者979人の対照群とを比較調査している。

その結果、かつてカナビスを吸ったことがあると自己報告している人の睾丸癌リスクは、以前にカナビスを使ったことのない対照群に比べて統計的に顕著な違いはみられなかった。

だが、現在カナビスを少なくとも週に一回以上使っているか、または18才以前からカナビスを使っていた人では、非セミノーマ(非精巣上皮腫)として知られるタイプの膀胱癌のリスクが対照群よりも上昇すると報告している。

この結果は一見恐ろしげに聞こえるかもしれないが、罠が隠されてもいる。

連邦政府の統計によると、カナビスを常用している人は何百人万人単位で存在するが、15才から34才の男性で非セミノーマと診断される男性は極めて少ないことが知られている。どのくらいかと言うと、アメリカ男性のすべての癌患者の0.5%にも満たないのだ。(日本では10万人中0.7〜2.4人)

さらに、この研究の仮説モデルでは長期的な傾向を説明できないという問題もある。1970年代以降、カナビスを吸う男性の率は劇的に増えているが、同時期に非セミノーマの発症率はほんのわずかしか上昇していない。

もちろん、主力マスメディアがカナビスについて誇張するのは今に始まったことでもない。例えば、昨年の今頃、ロイターやフォックス・ニュースは、カナビスのほうがタバコよりも癌のリスクが高いと決めつける報道をしている。だが、研究が 実際に示しているデータは全く逆 だった。

大手主力マスメディアが、カナビスのこととなると誇張したり間違ったニュースを伝え続ける理由については、以前のブログ でも書いた。多くの場合、それを伝える記者たちは、論文そのものを読んだりせずに、研究の規模や全体に占める割合などは無視してプレスリリースしか目を通していないのだ。

今回の研究: Association of marijuana use and the incidence of testicular germ cell tumors  Janet R. Daling. et al., Cancer 9 Feb 2009

カナビスと膀胱癌の影響については、小規模ながら 2006年に報告 されているが、おそらく今回の睾丸癌の研究は、そうした報告の刺激を受けて行われたものだろう。

だが、当時からこの種の研究にはいくつもの疑問がでており、今回の論文の結論でも、関連はみられたものの因果関係があるとまでは明示せず、カナビノイド・レセプターの分子レベルでもエンドカナビノイド・システムの検証が必要だと書いている。

一般に、今回のような横断研究で因果関係を示すことはできない。また、データが自己証言に頼っているために、特に今回のような稀な疾患に対しては、嘘の証言がすこしても混じることで大きな影響がでてくる。

実際、癌になった人は自分のカナビス使用歴を正直に話すことが期待できるが、そうではない人の場合は実際にはカナビスを使っていても、不都合が起こることを心配してやっていないと答える傾向があると考えられている。

今回の調査でも、睾丸癌と診断された時点でも、患者の26%がカナビス・スモーカーなのに対して(うち15%が毎日または週単位で使用)、対照群では20%(うち10%が毎日または週単位)と低くなっている。

また多くの研究者たちは、睾丸癌の大半が幼児期の初期から始まっていると考えている。比較的一般的な出生異常である 停留睾丸 は睾丸癌のリスクファクターの一つと考えられている。

また、睾丸癌には、セミノーマ(全体の60%)と非セミノーマ(40%)の2種類あるが、男性の場合ではセミノーマとも関連は弱い。確かに、睾丸癌全体は増加しているが、1973年から1998年までにセミノーマが64%増えているが、今回問題になっている非セミノーマでは24%にしかなっていない。さらに、ノールウエイやカナビスが事実上合法化されているオランダでは、ここ何十年も非セミノーマは増加していない。

また、ここ数十年で同時期にカナビスの使用者が爆発的に増加したが、今回の結果はそれとシンクロしていない点にも注目しなければならない。

参考: Will Smoking Pot Raise Your Risk of Testicular Cancer?  Kate Stinchfield, Feb. 9, 2009 (Health.com)

もともと、稀な癌の場合にはどのようなことでも原因とされる可能性があるが、そのリスク倍率を強調してみてもほとんど意味は持っていない。例えば10万人に1人が2倍で2人になったところで実感できないし、公衆衛生的にも深刻な問題が増加したとはいえない。

確かに,エンドカナビノイド・システムは生殖に直接関与しているので全く影響がないとは言い切れないが、実際には、リスク要因としてカナビス以外にも色々考えら、少なくとも今回マスコミが伝えるような決定的なことはこれまで報告されてはいない。