毎年繰り返される誇張報道

カナビスの効力が増えて

健康への危険も増加??

Source: NORML Blog
Pub date: 14 May 2009
Don’t Believe The Hype! Potent Pot, So What?
http://blog.norml.org/2009/05/14/dont-believe-the-hype-potent-pot-so-what/


今年も、カナビスの効力をめぐる誇張報道が行われる季節がめぐってきた。相変わらず政府は、今のカナビスが以前よりもますます効力を増してきているので健康への危険性も増えていると盛んに主張 しているが、 眉唾もので話は割引いて聞くべきだ。

例えば2年前の2007年6月には、DEAマイアミのマーク・トロウビル代表はAP通信に、「今のカナビスは、あなたのおじいさんや父親の時代のマリファナとは違うのです。害がずっと大きくなって中毒しやすくなっているのです。あなたを殺すことすらあるのです」 と 語っている

また2004年のロイター・ニュース・ワイヤーは、政府の当局者の話 として、「カナビスはもはや1960年代の弱い(gentle)ものとは異なり、コカインやヘロインも凌ぐ脅威になっているのです」 と伝えている。(だが、何十年前のカナビスがジェントルだったと言いながら、なぜ警察が逮捕までする必要があったのかは語られていない。)

ロイターは2007年にも、カナビスの効力が記録的に上昇しているという政府の主張を 取り上げている。その中で、ジョン・ウォルターズ前麻薬対策長官は、「今回の報告書では、もはや1960年代や70年代のポット(カナビス)とは全く違ったものになっていることが示されています。今や ポット2.0 の時代なのです」 と 警告 している。

2008年にも大手主要メディアは、カナビスの強さがこれまでで最高を記録したという新しいストーリーで味付けしなおして伝えている。例えば、2008年6月12日のAP通信は 次のように伝えている
ミシシッピー大学のカナビス効力監視プロジェクトでは、1975年以来、警察が押収したカナビスのTHC濃度を分析して平均値を調べているが、2007年の平均値は9.6%にも達している。この値は前年の8.75%を上回り過去最高となっている。

だが、実際に2008年に発表されたミシシッピー大学の 報告書のデータ を検証してみると、このもっともらしい情報の隠されたからくりがわかる。アメリカのカナビス市場で大半を占める国産のもののTHCの平均は5%以下で、この値はここ10年間変化していない。つまり、監視プロジェクトの平均値の上昇は、外国産の強いカナビスの押収件数が増えたからに過ぎない。

さて今年はどうだろうか? またも味付けを多少変えてお馴染みの警告を書き立てている。14日のCNNは、「カナビスの有効成分量、初の平均10%超え」 というタイトルで次のように伝えている。
この30十年間にカナビスの平均効力は着実に上昇を続けてきたが、政府が発表した今年の報告書では初めて10%を越えて10.1%になった。

ミシシッピー大学のカナビス効力監視プロジェクトでは、1975年以来毎年、警察が押収した多数のカナビスのTHC濃度を分析しているが、THC平均量 は1995年までは4%以下だった。だが、それ以降は急上昇し始め、2002年に7%を越え、2004年には8%を越えるまでになっていた。

プロジェクトを率いているモハメド・エルゾリー教授によれば、一部にはTHCが30%以上のものもあったと言う。また、今後5年から10年以内には15〜16%にまで上昇を続けるだろうと予想している。

いずれにしても皮肉にも、こうした記事が、貧弱だったカナビスの効力がどんどん改善されているというディーラーが喜びそうな宣伝になっていると思うのは筆者だけだろうか?

確かにこの記事でも当局のコメントを紹介して、効力が増したことで健康への害の懸念が大きくなった書いているが、その理由として 「高濃度のTHCのカナビスは低濃度のものとは反対の効果を持っている」 からだとわけの分からない説明を引用している。どうやら、一般の人たちのために、事実を確認しておく必要がありそうだ。

まず第一に、1960年代、70年代、あるいは80年代にも、警察や政治家たちはカナビスが強くなって危険になったと同じ警告を繰り替えしてきたことを思い起こす必要がある。彼らによれば、カナビスがジェントルだったことなどない。結局昔も今も、カナビスの効力は禁止しておくために取って付けた理由でしかない

また、アルコールなどと違ってTHCはその濃度にかかわらず実質的に 体への毒性はなく、オーバードーズで死亡することはない という事実も重要だ。実際、現在では医師はFDAが認証した100%THCのピルを合法的に処方できるようになっている。だか一方では奇妙なことに、ミシシピー大学や麻薬対策室の誰一人としてTHC100%のものについては健康への懸念を言い立ててようとはしていない。

第3に、実際には大半のカナビス・ユーザーは強い効力のカナビスよりも弱いもののほうを好む傾向がある ことも知っておく必要がある。これは、少量のカナビスの購入が実質的に合法化されているオランダとサンフランシスコの比較調査 でも明らかにされている。これは、アルコールを飲む多くの人が度数の高いウキスキーやウォッカよりもビールを好むのと同じだ。

また同調査では、強いカナビスを購入する傾向は禁止されているサンフランシスコのほうが高いことも示されている。当然のことながら、禁止法では効力ではなく所持している量によって量刑が決まるので、ユーザーはより濃度の高いものを購入しようとする。

さらに、カナビスには吸うと効果がすぐに現れるという他のドラッグにはない特徴があり、たとえ効力が強くてもユーザーは吸いながら量を調整できるのでリスクは増加しない。確かに、上の記事では初心者にはそうしたテクニックが身についていないなら危険だとしているが、これは、吸う前に量の上限を設定しておけば簡単に回避することができる。

最後に指摘しておかなければならないことは、もし本当に政治家や政府の研究者たちがカナビスの効力の強さに懸念を抱いているのならば、結局はカナビスを合法化して規制管理するしかない ということだ。そうすることによってはじめて効力を均一にすることが可能で、ユーザーはきちんとした情報をもとに選択できるようになる。これは、ラベルを確認してアルコールを購入するのと同じだ。

以上のような事実を念頭において全体を見直してみると、アメリカ政府の政策はカナビスの効力を増強させるように機能している。

確かに、連邦政府はカナビスを使うアメリカ人の数を少なくすることを望んで多額の税金を注ぎ込んでカナビスや植物を摘発しているが、そのことで生産者は地下に潜り、ブリダーたちは以前には存在しなかったような強力で洗練された品種を作り出す結果になっている。

まさか意図しているわけではないだろうが、結局皮肉なことに政府は、栽培者たちのために、今日のカナビスがかつてないほど効力が強くなっていると無料の宣伝を提供していることになる。

テレビのニュースを見た多数のアメリカ人は、すぐに街角のディーラーを探しに出かけて、スーパーポテントのカナビスに群がるようになる。そして政府は、人々のカナビス離れを促進するためと称してますます血税を要求するようになるという寸法だ。

カナビス効力問題は、来年もまた同じ時期に同じメディアで繰り返されることは間違いない。

今回の報道が始まった時点ではまだ概要報告の段階で、数字の根拠については曖昧だった。しかし、その後に正式に発表された 報告書 によると、サンプルには平均効力が20.76%のハシシと15.64%のハシシ・オイルが含まれており、数字が高くなる原因になっている。

今年の調査では、1年前に比較すると、ハシシやハシシ・オイル、あるいは高効力のバッズの構成比率が大きく増えているのが特徴で、これは、新しいタイプのカナビスが押収されたとして警察からの調査依頼が増えたことに関係している。

実際、昨年のサンプル数が1290件だったのに対して今年は818件と激減している上に、アメリカ国内産のカナビスのサンプル数が29.7%しかないことからもわかる。2005年の報告書 によれば、国内産カナビスが1万トンなのに対して外国産は5000トンで、サンプル数の比率とは全く違っている。

Marijuana Potency Hype: Is Fact-Checking Dead? (2009.5.29)

カナビス反対派の人たちは、事あるごとに「カナビスの効力の増して危険が大きくなったことは、それに歩調を合わせてカナビスの使用が原因で緊急病棟を訪れる人の数が急増していることからもわかる」 と盛んに主張している。

確かに、効力の増加を示すグラフと緊急病棟を訪れる人の数のグラフが似ていてもっともらしいが、実際には逮捕者数のグラフのほうがもっと似ている。


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このことから、反対派の主張には説得力がないことがわかる。実際、緊急病棟を訪れる人の急増の理由は、1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて裁判所がリハビリ治療送りの判決を下すことが急激に増えたためで、効力とは関係していない。

一方、逮捕者数と効力の関係については、逮捕者が増えるに従って品質のよいものが一度に多量に押収される機会が増えたことも考えられる。また、逮捕者が増えれば裁判で緊急病棟を訪れる人も増えても不思議はない。つまり、これら3グラフの中心的な役割は逮捕者数が担っていることになる?…

アメリカ政府の統計に見る カナビス「中毒」で治療を受けた人の実態と危険の誇張 (2009.3.31)

また、効力の強いカナビスがより大きな健康被害を出すことを示した研究は、これまで実施されたことは全くといってもよいほどない。これは、健康被害を調べた研究では、カナビスの使用回数や頻度を聞き取ることはできても、客観的な効力については使用者本人も知らないし調べようもないからだ。

もちろん同様に、効力と健康被害は無関係だと断定することもできないわけだが、それを強く示唆する事実ならある。 例えば平均THCが16〜18%のオランダの健康被害が10%のアメリカよりも多いことは示されてたことはない。また、オランダ政府の医療カナビスのTHCは18%だが、健康被害が多いという報告はない。

イギリス内務省 カナビスの効力に関するゴミ研究 (2009.1.18)
カナビスの効力問題、NORMLの批判にONDCPが二枚舌反論 (2008.6.19)
最近のカナビスの効力が急増していることを裏付る証拠はない (2008.5.29)
カナビスの効力が飛躍的に上昇? 効力の強いカナビスは危険か? (2005.3.20)
神話 効力の強いカナビスほど危険