ポルトガル議会で

カナビス合法化の動き

Source: Drug War Chronicle
Pub date: 3, July 2009
Marijuana Legalization Legislation in the Works in Portugal
http://stopthedrugwar.org/chronicle/592/
portugal_marijuana_legalization_bill


注目を集めるポルトガルの非犯罪化政策

今年3月にアメリカのケイトー研究所の グレン・グリーンワルド氏 が、8年前からはじまったポルトガルのドラッグの全面非犯罪化の成果について詳細な分析報告書を発表したのがきっかけになって、最近ではポルトガルのドラッグ政策が大きな注目を集めるようになった。

つい最近では、全く予想されていなかった国連薬犯罪事務所(UNODC)までもが 『ワールド・ドラッグ・レポート2009』 で好意的な見方を示すまでになっている。


さらに先を目指すポルトガル

だが、ポルトガルはそうした評判に有頂天になっているわけではなく、少なくとも一つの政党は次のレベルのドラッグ政策に向けて活動を開始している。その政党は左翼ブロック党((Bloco de Esquerda)で、少量カナビスの所持・栽培・小売を合法化する法案を準備している。また、この法案では、市場にカナビスを供給する小売・卸売栽培についてもライセンス化して認めることも盛り込まれている。

この活動については、現在では、ヨーロッパでの公正で効果的なドラッグ政策を求めている団体 ENCOD と積極的に協力を進めるようになってきている。 ENCOD運営委員会のメンバーを務め、法学生でジャーナリストでもあるポルトガルのジョルジュ・ロケ氏は、「ENCODと左翼ブロック党の両方に係わっている活動家やメンバーたちが協力し合えるようにアレンジしたのです」 と語っている。

今の法案は、こうした協力関係ができる前に作られてたもので、今年の議会で通過する見込みはほとんどないが、将来的にはドラッグ政策の改革を求める人たちと結びつくことによってそれを反映したより強力な法案に育っていくに違いない。


合法化法案の内容

法案のドラフトによれば、カナビスの使用者は、現行の非犯罪化法で決められているので同じ 「30日分」 までのカナビスを購入ができるようになっている。30日分は15グラムのハシシと75グラムのバッズに相当し、1日平均ではハシシ0.5グラム、バッズ2.5グラムになる。また、個人が栽培できるカナビス植物の本数は10本までで、これは上の30日分のカナビス所持と同時で可能になっている。

カナビスを小売する店舗については自治体によって認定されたライセンスが必要で、アルコールの同時販売や店内での飲酒は禁止されている。また、学校の500メートル以内での営業やギャンブル・マシンの設置も認められていないほか、16才以下や精神的な問題を抱える人を入店させてはならないようになっている。卸売用のカナビス栽培については、ポルトガル医薬品研究所のライセンスが必要になっている。

カナビスの宣伝は禁じられているが、小売するカナビス製品のパッケージには明確に出所や量を記載するだけではなく、使用に伴うリスクについてもWHOの基準に従った注意書を添える必要がある。また、カナビスの消費税については、予算審議の過程で税率を決めるとしている。

これ以外のカナビス取引については、重大な違反の場合は4年から12年、そうでない場合も4年以下の懲役刑が科せられる。また、ライセンスを受けた小売や卸売が規程に違反した場合は、最高3ヶ月の懲役か最低でも1ヶ月分の所得に相当する罰金が科せられることになっている。


すぐにどうなるといえる段階ではない

法案成立の見通氏については、提案しているブロック党の議席数が議会全体の230中わずか8議席に過ぎずすぐにどうなるといえる段階ではないが、政府は左寄りの政党がコントロールしているので少しずつ浸透している可能性がある。ブロック党は、ポルトガル政治状況が変化するときにはその先導役を果たしているとして一目を置かれている。

ロケ氏は言う。「正直言って最初は絶対に通らないと思いました。しかし、議員たちと何度か討論をしていくうちにだんだに楽観的に思えるようになってきたのです。もちろん左翼ブロック党だけで成立させることは不可能ですが、彼らのアイディアにはいつも議論を誘発する力があるのです。彼らはインテりジェントでヒューマンなグループと見られていますから、他の政党から支持される可能性も少なくないのです。」

今回の法案はENCODとの協力関係ができる前の作成されたのでそのアイディアを生かすことはできなかったが、ENCODのジープ・オーメン代表は、今後の議論でもブロック党は中心的な役割を果たしていくことになると言う。「ENCODが貢献できるのは、今後も継続的に議論を続けられるように情報提供したり、非犯罪化のような中途半端にならないようにすることです。」


オランダの経験に学べ

「ポルトガルはオランダの経験を学ぶ必要があります。オランダの30年のリベラルなカナビス政策が成功していることは明らかですが、現在はキリスト政権の圧力で危機に瀕しています。もとはと言えば、実際には禁止法が作り出している問題なのですが、その問題をてこにしてカナビスを非難し続けているのです。」

「具体的に言えばバックドアと言われている問題です。オランダではコーヒーショップでの小売販売は認められていますが、合法的にカナビスを仕入れる仕組みがないのです。このことが犯罪組織の介入と拡大を招いて問題になっているのです。」

「問題は単純なのです。カナビスを使うことを認めるのであれば、当然所持することも認めなければなりません。所持することを認めるのならば、栽培したり製品化して売り買いすることも認めなければならないのです。もし使用と所持だけは認めて、栽培したり製品化したりすることを認めなければ、問題が解決するどころかさらに大きな問題が出てくるのです。」

ロケ氏も、今回の合法化法案はこれまでの非犯罪化政策に対する批判がベースになっていると言う。「非犯罪化によってタブーがなくなりましたし、ドラッグで逮捕される恐れもなくなりましたが、現在ではそれを土台にさらに先へ進む準備が整ったのです。」


残されたタブー

最後に一つ残された大きなタブーとして国連のドラッグ条約があるが、オーメン氏もロケ氏もさほど懸念にしていない。

オーメン氏は、「ポルトガルが国連の条約を正面から問題にする必要はありません。法案は個人使用目的のカナビス栽培を規制管理することが目的なので、国際条約に違反しているとは考えられないからです。条約では、ドラッグの使用についてどのように扱うかはそれぞれの国の権限に任されているのです」 と話している。

ロケ氏はもう少し挑戦的だ。「国際条約やリスボン協定では、これらの問題の解決策は何ら示されてはいません。国連の条約はそれぞれの国の意志で批准されたものではありますが、国の利益を検討する解決策などはどこにも書かれていないのです。そのような条約に永遠と縛られるのは愚かな国だけです。」

ポルトガル議会がカナビスの合法化すれば、条約とその解釈をめぐってテストすることになる。

ポルトガルの教訓 ドラッグの全面非犯罪化が成功  (2009.3.14)
ポルトガル 全ドラッグ非犯罪化で害削減に成功  (2009.4.18)
ワールド・ドラッグ・レポート2009 国連のドラッグ長官 合法化議論を激しく攻撃  (2009.6.29)

しばしば非犯罪化と合法化は同義語として扱われることも少なくないが、この記事からも明らかなように基本的には全く別物であるといえる。厳密にはいろいろなバリエーションもあるが、その違いの要点を示すと大雑把に次のようになる。

  犯罪 非犯罪化 合法(規制管理)
個人使用目的所持 刑事罰 行政罰(罰金) 処罰なし
個人使用目的栽培 刑事罰 刑事罰 処罰なし
営利目的栽培 刑事罰 刑事罰 (刑事罰)
市場コントロール できない できない できる
  いかなる場合でも刑事罰で対処。 非犯罪化は、少量所持を罰則を罰金や病院での治療にするだけで、基本的には違法であることにはかわりはない。 現在のところ営利目的の栽培を合法化している国はないが、カナビス合法化運動ではライセンス化して認めることを求めている。

ポルトガルの非犯罪化の成功に注目が集まっているが、カナビスに関する限りは隣のスペインのほうがずっとリベラルで成功している。

あまり知られていないが、スペインではカナビスの個人使用目的での所持や栽培が非犯罪化されたことはない。というのは、最初から刑事犯罪として扱われたことがないからだ。

営利目的でのカナビス取引は禁止されており刑罰の対象になるのでオランダのようなコーヒーショップはないが、個人の栽培は合法で、金銭を伴わない友人同士のカジュアルなプレセントの範囲であれば譲渡も認められている。

スペインにおけるカナビスの法的状況

スペインのこうした対処法については、オランダに対するような国際的な非難が起こっていないことに注目しなければならない。

カナビスを合法化できない理由として、しばしば国連の単一条約で禁止されているからだと言われるが、単一条約で問題にしているのは営利目的の場合であって、個人の使用や栽培について刑事罰を適応するかどうかはそれぞれの国の判断に任されている。

この点でスペインは条約に違反しておらず、他国からも非難されていない。

だが、個人の栽培が許されているといっても、特に医療目的で使う場合には自分では栽培できない患者もいる。こうした患者は、友人の好意に頼るのではなく、確実に入手できる供給先が必要になるが、一方では、単一条約が医療用途のカナビスについては国の一括管理を求めているのでややこしい問題が出てくる。

スペインのユーザーたちはこの問題を解決するために、閉鎖された非営利の組合を結成して共同栽培する カナビス・ソーシャル・クラブ という仕組みを考え出している。現在ではその 合法性も確定 している。

アメリカでも医療カナビスについて同じような問題が出てきている。現在では13州が医療カナビスの使用を合法化しているが、連邦法ではいかなる使用であっても使用・栽培は違法で、特に栽培と供給については厳しく取り締まられている。

そのために、ほとんどの州では患者本人による栽培をのぞいて、医療カナビスを合法的に供給する規程はないが、最近、ニューメキシコ州や ロードアイランド州 が独自に医療カナビスの合法供給をライセンス化して認める州法を成立させて、連邦と対立するようになった。

こうした動きに対しては、以前の連邦は、単一条約で研究用や医療用については国が一元管理することになっているとして牽制していたが、オバマ政権の誕生で風向きが少し変わり、先日司法省のエリック・ホルダー長官が州公認の医療カナビス供給者の取締りはしない方針を示している。

単一条約は、その最大の後ろ盾であるアメリカでも空洞化に拍車がかかり始めている。