第3回公判(1)−被告人質問−



開廷前、廊下の椅子に座っていると、検事が通りかかった。

検事にしては珍しく、物腰の柔らかい印象の小柄な男だ。

「こんにちは。お手柔らかにお願いします。」

と声をかけた。

すると検事さん、にこにこした表情で会釈を返し、

「いやぁ、そういう議論はあまりしませんから・・」

と先手を打つように言い、法廷に入って行った。

 

午後3時開廷。

弁護士による被告人質問の続き。

−免許の申請が却下されたあとも栽培を続けていますね?−

「嗜好目的での却下のあと、異議申立てを行うつもりだったのと、医療目的で別途の申請を予定していたので、そのこともホームページで公言しながら、栽培も続けました。」

−大麻はどのように使っていましたか?−

「嗜好目的としての大麻の吸引は、お酒を好きな人が晩酌するのと似たような感覚で、寝る前とか、仕事のアイディアを練るときに一服とか、そんな使い方をしていました。他の人を巻き込んだことはなく、一回の使用量は1グラムから2グラムの間くらいだと思います。アルコールは意識が朦朧としますが、大麻にはそういうことはなく、普段気が付かなかったことに気が付いたり、音楽がきれいに聴こえたりする効果がありました。乱暴になることもなく、むしろ穏やかな気持ちになります。」

−医療的に大麻が使えるというのをいつどのように知りましたか?−

「医療的な効果があるらしいということは5・6年前に本を通じて知りました。大麻が禁止になっている根拠も本やインターネットなどで探しました。最近ではオランダやベルギーで医療大麻は合法化され、必要としている患者が大麻を手に入れることができます。アジアでもインドでは文化として根付いているものだし、そういう地域は世界中にあります。世界中にそうやって大麻を尊重しているところがあることも知りました。厚生労働省が覚醒剤などと同列に大麻を扱っているのは、厚生労働省の怠慢、研究不足だと思います。日本でも戦前までは薬として市販されていました。」

−栽培の目的は?−

「医療目的と自己使用目的です。栽培で押収された大麻のうち、麻の酔いが強烈に得られる自己使用目的のハイブリッドは2株で、それを人にあげたことはありません。まだできてませんでしたし。残りの337株は医療目的で、知り合いの知人が病人で必要としており、無償で提供する予定でした。すでに50株ちょっと、提供しました。無償です。間に入った人の名前はちょっと言えません。取調べでも聞かれましたけど、私が病人の名前を言えばあなたたちが行く、それで逮捕しないと約束できるかと聞いたら、逮捕することになるだろうと言ってました。ああ、ひどい国だなぁと思いました。知人から病人の名前は聞いていますが、年齢は50過ぎから80過ぎまでの年寄りです。病状は、皮膚癌、ヘルニア、メヌエル氏病、神経痛です。大麻を使用すると痛みと不眠、食欲不振を緩和すると聞いています。間に入った知人は大麻を吸いません。F2やF3はハイブリッドより酔いが弱く、病人は酔うのが目的ではないので、そのくらいでちょうどいいと聞きました。

−自分のやったことをどう思っている?−

「法治国家である日本で、公然と違法行為を行ったことについては反省しています。方法論として間違っていたと思います。今後、違法行為を行うつもりはありません。ただ、大麻取締法については、やはり、誰にも迷惑をかけていないのに、自分の病気を治そうと思ってですら逮捕されてしまうあり方は間違っていると思います。病気の人にとっては生存権の侵害で、幸福追求権の侵害です。法のあり方そのものがちょっとおかしいのではないかと思っています。

−逮捕についてはどうでしたか?−

「ネットで公言しながら公然と栽培していましたので、逮捕は覚悟していました。免許申請の際、私は、あえて社会に問題提起するつもりでやっていましたので、防犯の項目にはパトロールを警察に依頼する、盗まれないように、ということで申請していました。で、実際に申請してみたらどうなるのか。行政的に手続中であれば指導や呼び出しの上、没収くらいで終わるのか、逮捕されるのか、それを確かめてみたいと思っていました。」

−実際に逮捕されてみてどうですか?−

「もう、こりごり、です。妻や子たち、両親にもひどい思いをさせました。ある程度、逮捕は予測していましたが、それでも大切な人たちに大きなダメージを与えてしまいました。精神的にも、経済的にも、迷惑をかけました。父は、大麻については、話したところ、分かったと言ってくれましたが、家族を大切にするよう強く叱られました。会社も私がいないとできません。アルバイト的に手伝ってもらう人はいますが、社員というのはいません。顧客も減りましたし、現在も非常に厳しい状況です。」

−桂川さんの「麻の復権をめざす会」との関係は?−

「桂川さんの調書に出てくる麻の復権をめざす会は、実体としてはないと思っていました。私も麻の復権をめざす会の会員としては活動をしていません。私は、大麻愛好者を増やして法律を破綻させようと思っていたのでもありません。大麻で逮捕するのはおかしいと主張していました。愛好者は免許を取って合法的に扱えるようにしようと主張していました。」

−今後について−

「今後は、法治国家である日本で法律を公然と犯すとこういう目にあう、ということが十分に分かりましたので、あくまでも合法的に大麻取締法はおかしいと主張していきたいと思います。」

−でも当面は?−

「当面は、、、生活の建て直しが一番です。法律が変わらない限り、今後は一切大麻の所持や栽培はしません。」

 

弁護人と検事が質問者交代。俺もずっと立ったまま。腰が痛い。ズボンがきつい。

検事
−あなたは大麻で「酔う」という表現をしましたけど、大麻を吸うとどうなるんですか?−

「(吸ってみりゃ分かるんですけど)私の場合、穏やかに酔っぱらう作用があると思います。」

−あなたが大麻を渡した患者さんの医師は、大麻の使用についてどう判断しているんですか?−

「私が譲り渡した患者の医者が、大麻の使用について知っているのかどうか、知りません。」

−大麻が必要な患者は勝手に作っていいってことを主張してるの?−

「大麻を必要としている患者が手に入れることのできる制度が必要です。そういう制度を作ろうという主張です。大麻が有効視されている病気もあるので、処方が制度的に認められるべきだと思っています。制度を待たずに栽培したことは反省しています。逮捕されて、子たちとの夏休みの約束も守れなかったし、思ったより待遇がひどくて反省しましたし、あくまでも合法的に自分の考えを表現しないといけないな、と思いました。

大麻の有害性の議論以外に法制度の議論があるのは知っていましたが、現に必要としている患者がいましたので、栽培を続けました。・・そういえば、患者の一人は病状が悪化して再入院したそうです。冗談で、なんで大麻を持ってきてくれないのかと言っているそうです。こういう状況になっていることを知ったうえで。他の人も、通院して化学療法を受けてはいるけど、副作用がキツくて、それで逆に体が参っているという話も聞きました。」

検事の質問はこれだけだった。もっと激しく糾弾調で詰問されることを予想していた。開廷前に廊下で「そういう議論はしない」と言っていたのはそういうことだったのか。

裁判官
−あなたは、勝手に栽培していいと思っているの?制度が必要だと思っているの?−

「大麻を処方される制度があればそれが一番望ましいと思っています。・・嗜好目的ということまで踏み込んで言えば、その辺に元々生えてる草ですし、日本では古来から栽培されていた、神聖な、天与の草でもありますので、それを取り締るっていうのは、やはりどうなんだろうと今でも思っています。」

−逮捕を覚悟していたっていうけど?−

「いや、でも、実際はこんなにすぐ逮捕だとは思っていませんでした。却下されてはいましたけど、免許の申請手続き期間中でしたし(秋には来るだろう、早めに収穫しなけゃと思ってました)。実験だと思っていましたが、実験としても失敗しました。」

−また病人が大麻が欲しいと言って来たらどうするの?−

「もうありませんと答えます。今後は、違法行為を行うとどうなるか実感しましたので、あくまでも合法的に、法の範囲内で主張していきたいと思っています。」

 

被告人質問が終わり、やっと長椅子に戻って座る。

 

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