オランダ・マーストリヒト市

コーヒーショップ移転計画を開始

ベルギー側は裁判で対抗の構え、外交問題に発展か

Source: Gazet van Antwerpen
Pub date: 18 Jan 2008
Subj: Coffeeshop Close To Border Cause Diplomatic Conflict
http://www.encod.org/info/COFFEESHOPS-CLOSE-TO-BORDER-CAUSE.html


オランダのマストリヒト市議会は、今日、市の国境近くに「ウイード通り」(weedboulevard)を建設することを正式に認めた。「ウイード通り」 はこれまで論議の的になって注目を集めていたもので、市内中心部のコーヒーショップが移転することが予定されている。

これに対して、ベルギー側の隣接自治体では、ドラッグ・ツリーズムによる迷惑や何が起こるかわからないという不安に怯えている。ベルギーのパトリック・デァアウル自治大臣(Open VLD)は、マーストリヒトのゲルト・リールス市長がこの計画を撤回しなければ、ヨーロッパ司法裁判所に訴えると牽制している。

マーストリヒト市ではドラッグ・ツーリズムによる中心部迷惑を回避するために、7軒のコーヒーショップが郊外の3箇所のコーヒーショップ・コーナーへ移転することにしているが、市長と市議会は今日、3軒のコーヒーショップ (ミシシッピー、スモーキー、スマーフ) にライセンスを認めた。ライセンスは恒久的なものではなく、3年間に制限されている。

予定されている3箇所のコーヒーショップ・コーナーは市の南部と北部と西部に位置しており(下の地図参照)、それぞれのコーナーには建設終了後に2軒または3軒のコーヒーショップが中心部から移転することになっている。最初の店はこの夏に営業を始めることが見込まれている。

このゾーニング・プランに対しては、市長や市議会が撤回する理由が見当たらないとして、昨年の10月18日から暫定的な例外措置として認可手続きが開始されていた。


迷惑が拡大

国境に隣接するベルギーのラネケン、リームスト、ファーレンの各自治体は、コーヒショップの移転でベルギー側に迷惑が拡がってくることを恐れている。マーク・フォス・リーマスト市長は、「マーストリヒト市が中心部の迷惑を減らしたいのはわかりますが、われわれベルギー側でもコーヒーショップにともなう違法行為は全く望んでいないのです」 と語っている。

一方、マーストリヒト市のウィム・オルテエン広報官は、ベルギーが国境の向こうから批判してくることが理解できないと言う。「今回ライセンスを与えられた3軒のコーヒーショップのうち2軒については、現在ベルギー国境から3キロほどのところに位置していますが、移転先は国境から10キロも離れているのです。それなのに、ウイード通りに対するベルギー側の反応は極めてヒステリックで、とても奇妙に感じます。」


シェンゲン協定違反

EUの掲げる統合の理念は、究極的にはオランダとベルギーの国境地帯がなくなることを意味しているようにみえる。しかし、マーク・フォス・リームスト市長は、「この種の移転はシェンゲン協定に違反しています。協定では、加盟国は自国の迷惑を近隣国に押しつけることは許されていないのです。現在でも既に、私の自治体のドラッグ犯罪が増えてきています。ウィード通りの建設によってその数が減るなどとはとても考えられません」 と主張している。

ヨーロッパ議会のイボ・ベレット議員(ベルギー・キリスト教民主)は、「オランダは、ドラッグ取引に関して国境を越えて協力して取り組むというEUの原則の署名しているのですから、この計画については何も弁解できないはずです」 と語っている。

パトリック・デァアウル自治大臣は、メリキオー・ワスレット議員(キリスト教民主)の質問に対して、もしマーストリヒトのリールス市長がコーヒーショップのベルギー国境への移転計画にあくまでも固執するならば、裁判に訴えるつもりだと答えている。

大臣は、マーストリヒトと同様の計画を持っていたツルネゼン市との交渉では多くの困難を克服した経験があると強調して、今回も可能だとしている。ツスネゼン市のケースでは、ベルギーのオーストフランデレン州知事との話し合いでベルギー側の不安が鎮静化しているが、「残念ながら、マーストリヒト市長との交渉はさらに困難が予想されます。」

また、大臣は、各国の司法大臣と自治大臣が集まって来週開催されるEUのコンファレンスでも、再びオランダ側にこの問題を投げかけるつもりだと話している。


自業自得

ファーレンのハウブ・ブロアー村長も、コーヒーショップがやって来ることに不安と恐怖を抱いている。

「マーストリヒト市は、自分が作り出したドラッグ問題を他に押しつけようとしているのです。オランダは、ドラッグの使用に対する寛容な態度をずっと宣伝してきたわけですが、それが多くのユーザーを引きつけてきたことは明らかです。その結果出てきた問題を近隣の自治体に振り向けることはフェアなやり方ではありません。」

「コーヒーショップの移転によって山のような問題が出てくることは間違いありません。もしそれに疑問を抱く人がいれば、その人はこの地域の状況をよく知らないのです。それは、マーストリヒト市自身が、市の中心部の迷惑を取り除きたいと思っていることを見ればわかるはずです。」


ごり押しに怒り

ラネケン、リームスト、ファーレンの各自治体では、移転問題を裁判に訴えるために既にオランダの弁護士を雇っている。マーク・フォス・リームスト市長は、昨日、「マーストリヒト市からは適正な返事が帰って来ると思います」 と語っているが、その真意については詳しく話そうとしなかった。

コーヒーショップ移転計画については、昨年、ベルギーのフェルホフスタット首相もオランダのバルケネンデ首相に抗議している。バルケネンデ首相は、政府の方針に従って国境地帯へコーヒーショップを移転することを禁止するように迅速に対処するとしていたが、リールス市長は、それを無視して今日公式に移転計画を発表した。


新しいコーヒーショップ・コーナーは3箇所に建設される

この記事はベルギーの新聞に掲載されたもので見方がベルギー寄りになっている。記事にはオランダの首相が移転させないと約束したようにかかれているが、実際には明確な約束があったわけではない。オランダ政府は、2004年の フェンロー市のコーヒーショップ移転 の際にも、移転が好ましくないとしながらも黙認している。

ベルギーのフェルホフスタット首相の 抗議 は、昨年行われた総選挙を控えて不利な情勢を打開しようとしたものと受け取られている。だが、6月の選挙では、フェルホフスタット首相の連立与党が大敗している。

しかしその後、次期首相候補のイブ・ルテルム党首は、半年をかけて連立政権の樹立を試みたが交渉に失敗し、現在はアルベール国王の命令によってフェルホフスタット氏が暫定内閣の首相を努めている。しかし、内閣は予算編成が主目的で全面的に権力を行使できるわけではなく、コーヒーショップ問題に積極的に介入する状態にはない。

ベルギーでは、フェルホフスタット政権が2001年に3グラムまでの所持を認める決定をしたが(2003年5月から実施)、一方で販売は禁止したままで、当時の司法相は、カナビスを手に入れるには オランダのコーヒーショップで買えばいいと答えている。もともとベルギーには根本的にこのようなご都合主義がある。

ベルギーはコーヒーショップを開くべき  (2007.12.4)
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