カナビスの喫煙は

肺癌や呼吸器障害を引き起こす



神話

ジョイント1本にはタバコの4本分のタールが含まれており、カナビスの喫煙は肺癌や呼吸器系障害を引き起こす。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話 1-52-3


事実

この神話では、カナビスのタールがタバコよりも多いことを理由に肺癌や呼吸器系障害のリスクが大きくなると言っているが、確かに素朴な印象論として一般受けしやすい説明にはなっている。

しかし、本当の問題は、カナビスの煙を体内に吸い込んだ時に癌になりやすいのかどうかということで、タール量の多さにあるわけではない。カナビスの煙もタバコの煙のどちらにも同じ発癌物質がたくさん含まれていることは間違いないとしても、だからと言って、人間の生理的な反応までもが同じようになるわけではない。

重要なことは、カナビスの煙にはカナビノイドが含まれ、タバコの煙にはニコチンが含まれているために、生理的・薬理的な特徴には根本的な違いがある という点にある。

実際、カナビスの場合は、タバコと違い、たとえヘビーな常用者であってもカナビス喫煙で肺癌や気腫にはならないことがさまざまな研究で明らかになっている。また、慢性化するような閉塞性肺疾患(COPD)が起こることも見つかっていない。しかし、この神話は、こうした現実を全く見ていない。


●この神話は、UCLA医学部の タシュキン教授が1987年に発表した論文 が発端となっている。その後いろいろな研究者が発表した結果を2002年にイギリス肺財団がまとめて 『カナビスはスモーキング・ガン』 という報告書を作成し、マスコミが一斉に 「カナビス・ジョイント3〜4本のリスクはタバコ1箱と同等」 と伝えたことで この神話がひろまった

だが、報告書を出したイギリス肺財団自身は何も実験していなかったので、その後、結果を追認する研究が フランス や カナダ で行われた。

しかしながら、いずれの実験もカナビスの煙の化学的組成を調べただけで、煙が体内に入ったときに起こる生理反応や薬理作用にまで踏み込んで発癌性のメカニズムを言及したものではなく、タバコで肺癌になるのだから、タールのもっと多いカナビスではもとリスクが高いはずだというマスコミ好みの憶測を投げ掛けるだけで終ってしまっている。


●カナビスの煙には発癌性がないという 生理・薬理的な説明 を理解することは必ずしも簡単ではないが、最終的に最も重要なことは、実際にはカナビスの喫煙で肺癌などのリスクが増加しないことが、大規模な疫学研究 で何度も示されていることだ。

2006年に発表されたロスアンゼルスの研究では、最もヘビーなユーザーとしては生涯のカナビスのジョイント本数22000本以上 (60ジョイント年)、中からヘビーな場合では11000から22000本としているが、そうしたスモーカーでさえガンになるリスクは増加せず、少ししかカナビスを吸っていない、あるいは全く使っていない人たちと比較して何らリスクに違いはなかったと結論を書いている。

実は、この研究を率いたのが、UCLAのタシュキン教授で、この人こそ1980年代からカナビスの煙の素性を調べて、カナビス1本の煙のタール量はタバコの4倍という主張の発端を指摘した人だった。20年以上の研究の総仕上げとして実施された人間での大規模疫学調査だったが、予想外の結果 になったと語っている。


●これ以前に行われた大規模研究でも同じような結論が出ている。例えば、アメリカのドラッグ乱用研究所(NIDA)が資金提供してジョンズホプキンス大学で行われた2000年の研究では、164人の口頭癌患者と526人の対照群を比較した結果、「エビデンスを総合的に見れば……社会で広く使われているカナビスが頭や首や肺の癌の原因になるとする考え方を支持していない」 と 報告 している。

また、1997年の行われた カイザイー・ペーマネンテの後向きコホート研究 では、カリフォルニア州の男女癌患者6万5171人についてカナビス使用との関連性を調べたところ、タバコによってリスクが増加することが知られている肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、黒色腫などの癌については、カナビスの使用ではリスクが増えないことを見出している。

さらに、アメリカで最も信頼されている科学アカデミー医薬研究所(IOM)の1999年の 報告書 でもキッパリと 「通常、タバコの使用に関連しているとされている癌も含めて、カナビスが人体に癌を引き起こすことを示した決定的なエビデンスはない」 と書いている。

また、肺癌にならないばかりか、最近の研究では、THCが肺癌の成長を抑える ことまで示す研究すら発表されている。


●カナビスが引き起こす呼吸器系の障害は軽微なもので、特に医療価値もないタバコに比較すれば決して大きくはない。カナビスの呼吸器系への影響を調べた大多数の研究では、カナビスよりもタバコのほうが、咳、痰、喘鳴、胸苦しさなどを引き起こしやすいと報告している。

例えば、2007年に発表された ニュージーランドの研究 では、 339人の被験者を対象に呼吸器テストと高解像度CT検査を行って、カナビス喫煙グループ、タバコ喫煙グループ、カナビス+タバコ喫煙グループ、非喫煙グループの4グループ間で肺組織とその機能および呼吸器症状にどのような違いがあるかを調べている。

その結果、カナビスの喫煙は気腫を起こさないが、喘鳴・咳・痰・胸苦しさを引き起こすと書いてある。だか、タバコだけのグループとカナビスとタバコを併用しているグループでは、カナビスだけのグループよりも ほとんどの数値は悪くなっている

また、カイザー・パーマネンテ・ケア・プログラムの研究 では、タバコを併用していないカナビスのみの常用者の呼吸器系疾患の外来(3206人)は、非喫煙者(2882人)に比較してほんの僅かに多いに過ぎず、6年間の調査期間に、風邪、インフルエンザ、気管支炎で治療を受けたのは、カナビス常用者が36%だったのに対して、非喫煙者は若干低い33%だったと報告している。


●肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)についてもカナビスの喫煙でリスクが増加しないことが、タシュキン教授の研究 や エール大学の研究 などで示されている。

例えば、1997年のUCLAの タシュキン教授の研究チームの報告 では、「タバコの常用者では年齢とともに肺機能の年間低下率が加速していくが、カナビスに関しては現在までのところ、たとえヘビーな常用者でもそのような傾向は見られず、慢性閉塞性肺疾患に発展する傾向も見られない」 と結論を書いている。


●先のニュージーランドの研究の肺機能テストで、カナビスの数値が唯一タバコより劣っていたのは気道の収縮を示す気道抵抗値(sGaw)だが、このことは 1987年のタシュキン教授の初期の報告 でも指摘されている。

おそらくこれは、カナビスを吸うときに深く吸い込んでしばらくそのままホールドする習慣が関係している。だが、医療カナビスの場合は一般に効力が強く(THC18〜10%)、そうした無理な吸い方をする必要はないので影響は少ないのではないかとも考えられる。