カナビス喫煙では1時間以内に

心臓発作を起こすリスクが5倍に増える



神話

ハーバード大学の研究では、カナビス喫煙後1時間以内に心臓発作を起こすリスクが通常よりも5倍に増えることが示されている。
アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話 1-6


事実

この神話では、いかにもカナビスを吸う人なら誰でも心臓発作のリスクがあるように印象付けるように書かれているが、実際の研究では、平均4日前に心筋梗塞を起した人が母集団になっている。それを意図的に明示していないで、5倍というリスクを強調するのは典型的な詭弁論法になっている。

しかも、5倍と言っても、研究者自身が 「カナビスの喫煙が心臓発作のトリガーになることは滅多にない」 と述べているように、ごく小人数の比率による見かけ倒しの倍率で統計数字的な意味なほとんどない。

また、心臓血管に問題のある医療カナビス患者の場合は、健康な人よりも心臓発作に襲われるリスクが高いことも考えられるが、大切なのは、患者本人と医師がカナビス以外の医薬品を使った場合のリスクと比較検討することで、例えば、末期的な癌患者の場合、通常の医薬品では効果がなく食べたり眠ったりできないリスクよりも、たとえ心臓発作を起こすリスクがあっても、カナビスで食欲や睡眠を得るメリットのほうが大きい。また、バポライザーでゆっくり吸えば、酸欠や一酸化炭素の吸引を避けることができるので、リスクが軽減できる可能性もある。


●この神話のベースになっている 研究 は2000年にアメリカ心臓協会のカンファレンスで発表されたもので、それによると、平均4日前に心筋梗塞を起こした患者3882人を調べたところ、過去1年以内にカナビス使ったことのある人は124人で、発作の24時間前までにカナビスを吸っていた人が37人おり、1時間前に限ると9人いた。このことから、1時間以内に発作をおこす確率が通常より4.8倍も高くなり、また、2時間までの場合は1.7倍と急激に減少することからカナビス喫煙直後が特に危険だと結論づけられた。

この研究でまず問題なのは、3882人中9人ということは0.2%に過ぎず、統計的な議論をするには余りにも人数が少ない点だ。また研究は因果関係を明らかにしたものではなく、もともと心臓に問題を抱えている人であればカナビスを吸っていなくてもいずれ心臓発作を起こしていた可能性が高い。

使われている研究の分析法には明らかな欠陥がある。サンプル数が統計的に意味あるものではなく、因果関係も立証されていない。しかも追認調査で再現されたこともない・・・仮りにこの研究の結果が正しいとしても、50才の100万人に10人という人数に過ぎないのに、センセーショナルに取り上げられ過ぎている。(Lindesmith Newsletter. Junk Science Makes Headlines. Questionable Study Links Marijuana Smoking and Heart Attacks. June 15, 2001.)

研究者は、発作の原因として、カナビスを吸うと心拍数が増加することを上げている。横になって吸った場合には特に心拍数が増え、40鼓動以上多くなることがあるとしている。しかし、実際は、カナビスに慣れた健康な人ならば心拍数は余り変化せず、増えたとしても20鼓動程度で、運動やセックスをしたときほど増えるわけでもない。

また調査では、タバコを使っている人の割合が非カナビス・ユーザーでは32%なのに対して、カナビス・ユーザーでは68%で非常に高くなっているが、このことが関係している可能性もある。いずれにしても、朝起きて排便を済ませた1時間以内に発作を起こした人の割合が6.7%という調査もあり、それに比較してもカナビスの喫煙を 「顕著なリスク」 というのには無理がある。

心筋梗塞は、長い時間をかけて心臓の血管が細り、徐々に血流が悪くなって臨界点に達したときに起こる症状で突然起こるわけではない。この論文でも、問題にしているのはそのような人に対して心臓発作の「トリガー」になることであって、カナビスを吸っていると心臓病になりやすくなるといっているわけではない。実際、論文の著者たちも結論で、「カナビスの喫煙が心臓発作のトリガーになることは滅多にない」 と書いている。

この問題が最初に報道された当時はまだ正式な論文は提出されておらず概要発表だけだったが、周到に設定された記者会見で感想を求められた研究者が派手な警告を発するという不自然なものだった。研究は、国立薬物乱用研究所(NIDA)からの資金提供を受けていたことや、同時期にカナビスの医療効果の発表が相次いでいたことなどから、それを牽制する意図かあったのではないかと当初より内容を疑問視するむきもあった。




カナビスを単独でヘビーに使っても心臓病のリスクにはならない

アメリカ心臓学ジャーナル2006年8月号に掲載された15年におよぶ 長期研究によれば、カナビスを単独でヘビーに使用しても、高血圧や心臓のリスク要因にはならないことが示されている。

サンフランシスコのカリフォルニア大学疫学・生物統計学科の研究者たちは、若年成人の冠動脈リスク進行に関する調査プロジェクト(CARDIA)に参加した3617人の若年成人について、カロリー摂取量や肥満度指数(BMI)などの心臓病のリスク要因とカナビスの使用との関連を調査した。

15年間に1800日以上カナビスを使っていたヘビーユース・グループの1日あたりのカロリー摂取量は3365カロリーで、非使用者の2746カロリーに比較すると高くなっているが、カナビスだけを使っている人では、トリグリセリド(血清脂質)や粥状動脈硬化や血圧のレベルが高くなることはなかった。しかし研究者たちは、アルコールを併用しているヘビーなカナビス・ユーザーの場合は、心臓病のリスク要因が高まると指摘している。

2006年の始めに法医学・医薬・病理学ジャーナルに掲載されたカナビス使用と心臓毒性の 研究 では、節度のあるカナビス使用が心臓病のリスクになることはほとんどないと報告している。

人間の臨床研究によると、特にカナビス初心者の場合には摂取量が多くなるの従って心拍数や血圧が増加するが、慣れてくるとそのようなことは全くなくなることが示されている。これとは逆に、動物にカナビノイドを投与した場合は、血管の拡張、短期的な徐脈や低血圧 が多く見られる。また、合成カナビノイドを投与では、動物の場合は低血圧傾向になるが、人間の場合は心臓毒性とは関連がないことも示されている。

カナビスを単独でヘビーに使っても心臓病のリスクにはならない  (2006.8.10)


カナビノイドには心臓を守る働きがある

2007年9月に発表されたイスラエル・ヘブライ大学の研究によると、心臓への血液の供給を阻害して損傷を与えたマウスに非精神活性カナビノイドのカナビジオール(CBD)を与えたところ、心臓の働きが回復することがわかった。心臓への障害は、マウスの心臓動脈を30分間締め付けることで起こした。その後、7日間にわたってCBDを処方したところ、処方しなかったマウスに比較して、梗塞のサイズが66%小さくなることが確認された。(ラファエル・マッカラム博士 が率いるヘブライ大学のカナビノイド研究は世界最先端を行く)

Source:
Durst R, et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol. (2007.9.21);  [Electronic publication ahead of print]
IACM-Bulletin  (2007.9.30)


やはりリスクが高まる?

2008年3月に発表されたマサチューセッツのベス・イスラエル慈善医学センターの 研究 では、1989年から1994年までに心筋梗塞で入院した1913人を約4年間追跡した調査を分析して、カナビス・ユーザーの年齢と性別を調整した後の心臓関係のリスクは1.9倍、その他のリスクが4.9倍になったと報告している。

結論では、「これらの予備段階の結果は、急性の心筋梗塞で生存している患者にとってはカナビスが害になる可能性を示唆している。カナビスは、心筋梗塞に関係ない人では死亡リスクにはならないが、特に冠動脈疾患になりやすい人にはリスクになると思われる」 と書いている。

この研究では、なぜ15年以上も前のデータを分析しているのか非常に不思議だが、それは一応別として、過去1年間にカナビスを使った人は52人(全体の2.7%)と少なく、しかも死亡した人が42人中6人(14%)しかいないことや、聞き取り調査ではアルコールやタバコとの関連を十分調べた形跡がないこと、心臓関係以外で死亡している人が多いことなどから、カナビスと心臓病の直接の因果関係は十分に示されているとはとても言い難い。

仮りにこの研究の結果が正しいとしても、アメリカの心筋梗塞発症率は10万人あたり年間100人程度といわれており、リスクがあるのはせいぜい10万人中で1人以下に過ぎないことになる。また、この研究では心筋梗塞発症者で過去1年間にカナビスを使った人が2.7%しかおらず、人口全体でのカナビス使用率 (例えば1991年に8.9%)に比べれば非常に低く、心筋梗塞の発症が中年以降に偏っていることを考慮しても、カナビスを使っている人のほうがかえって心筋梗塞を起こしにくいようにさえも見える。

いずれにしても、この研究の結論でも述べているように、少なくとも普通のカナビス・ユーザーがカナビスを使うと心臓病になるリスクが増えるわけではない。ごく一部の人たちに起こるリスクを、さもすべてのカナビス・ユーザーにもリスクがあるかのように言い立てることは詭弁で間違っていることにはかわりはない。


NIDAの研究、カナビスで心臓発作のリスクが増加!?

2008年5月13日、「
カナビスで心臓発作のリスクの増加を示す研究が発表」 というニュースがロイターを始めとする大手マスコミに一斉に流れた。これまでのような疫学調査ではなく、人間の血液を調べたものでかなり決定的な発見だというニュアンスになっている。

記事によると、C-IIIと呼ばれるアポリポタンパク質がカナビス・ユーザーの血液中に非ユーザーよりも30%多いことが見出されたが、この物質は心血管リスク因子として知られ、トリグリセリドのレベルの上昇を招いて動脈硬化や動脈壁の肥厚が起こるために、心臓発作や心臓疾患のリスクが高まる…… 多量のTHCによって肝臓のカナビノイド・レセプターの活動が亢進しすぎて、このタンパクが過剰に生産されるようだ…… 

何やらもっともらしい説明がいろいろ書かれているが、結局、実験で示されたことは、カナビス・ユーザーの血液中にはアポリポタンパク質が多いということのみで、後はすべて推論でしかなく、実際に心臓疾患のリスクが高まることは全く示されていない。

さらに、調査対象になった被験者は、非ユーザー24人に対してカナビス・ユーザーは約3分の2の18人で、しかも週に78〜350本のジョイントを吸っている。1日のジョイント数が11〜50本! 一部の医療カナビス患者か病的な依存症の人を別にすれば、リクレーショナルでこんなに大量のカナビスを吸うユーザーなどは絶対と断言してもよいほどいない。今回の被験者たちはすでに何らかの障害を抱えていて、その結果としてタンパクが過剰に生産された可能性もある。

また、このような少人数グループでは、2〜3人のレベルが突出していただけでも平均値に大きな影響が出てくる。今回の場合では、人数の少ないカナビス・ユーザーのほうがより大きな影響が出やすくなっており、簡単に集めることのできる非喫煙者のほうがかなり多くなっていることには、意図的な操作が行われている可能性さえ感じさせる。

さらによく確かめると、この研究は、カナビスの悪害の追求を使命とする国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)関係の研究チームによるものだった。実際、NIDAの研究の多くは、極端な条件設定で得られた僅かばかりの実験結果を記者会見で大々的に発表し、推論で途方もなく誇張し一般化して危険性を伝えるのが常になっている。

今回の研究もその典型例と言ってもよいだろう。これまでの例から推察すれば、今後この研究がさらに推し進められて実際のリスクが具体的に示されることはないだろう。今回の発表で、この研究はその使命を終えているからだ。