医療カナビス研究への妨害をやめよ

アメリカ超党派の国会議員がDEAに書簡

Source: ACLU
Pub date: September 18, 2007
Title: Congress Ask DEA to Stop Obstructing MMJ Research
http://cannabisnews.com/news/23/thread23335.shtml


  • DEA (Drug Enforcement Administration):麻薬取締局
  • FDA (Food and Drug Administration):食品医薬品局
  • NIDA (National Institute of Drug Abuse、ナイダ):国立ドラッグ乱用研究所

  • ACLU (American Civil Liberties Union):アメリカ自由人権協会
  • MAPS (Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies):サイケデリックス多分野研究連盟

  • 本日、アメリカの下院議員45人が、カナビスの合法医薬品開発を目的にした科学研究に対する妨害を終結させることを求めた書簡を連名で連邦司法省麻薬局(DEA)に送付した。

    この書簡は、ジョン・オリバー議員(マサチュセッツ、民主)とダナ・ロールバッハー議員(カリフォルニア、共和)の二人が超党派に呼びかけて実現したもので、DEAのカレン・タンディー局長に対して、2007年2月にDEAの行政法判事メリー・エレン・ビットナー裁判官が下した判決に従うように迫っている。

    この裁判では、現在DEAが独占栽培している研究用カナビスを、マサチューセッツ大学のライル・クラカイー教授にも栽培を許可するライセンスを認めて、食品医薬品局(FDA)が承認した医学研究で研究に見合った高レベルのカナビスを栽培して提供できるようにすることを求めていた。これに対してビットナー裁判官は、この栽培が 「公共の利益に合致」 するとして支持する判決を下している。

    しかし、一方では、この判決には拘束力がなく、最終的にDEAが受け入れるか拒絶するかを決める期日もない。

    「DEAにとっては遅れさせることが勝利なのでしょうが、患者さんにとっては、遅れることは生と死を分ける問題なのです」 と、2005年からクラカー教授の裁判にかかわってきたアメリカ自由人権協会(ACLU)のアラン・ホッパー・ドラッグ法改革プロジェクト訴訟リーダーは言う。「科学や公共の福祉に対するDEAの不適切なドラッグ戦争がエスカレートしていますが、それを覆そうとする政治の動きも高まってきて勇気付けられています。」

    この初夏には、議会でも、クラカー問題をめぐるDEAの対処の仕方について大きな議論が行われた。下院司法委員会の犯罪・テロ・本土防衛小委員会の公聴会で、ジェロルド・ナドラー議員(ニューヨーク、民主)は、DEAのジェセフ・ラナジッシー副局長に対して一連の質問をして、DEAの決定の遅れに不満を示し、ブッシュ政権の任期終了までには決定を下すように強く求めた。

    「カナビスには、深刻な病状にある患者さんに恩恵のあることを示す明確で膨大な証拠があるにもかかわらず、DEAはそれを無視しているのです。病んだアメリカ市民に最良の治療オプションを本気で提供しようと思うなら、連邦の官僚の言うことではなく、医師と医学研究者の意見を信ずるべきです」 とナドラー議員は書簡に署名した後で話している。

    クラカー教授が最初にDEAに栽培許可を申請したのは2001年6月にまで遡る。クラカー教授の申請目的は、いままで政府に独占されて認められていなかった研究用カナビスを栽培する民間の施設を作り、臨床研究を行う研究者たちにも提供して、カナビスがFDA基準にある医薬品としての安全性と効能を備えているかどうかを研究することにあった。

    研究者の間ではカナビスの医療効果に強い興味が持たれていたが、FDAの承認した本格的な臨床研究はいまだ行われたことはない。連邦政府は、研究用カナビスについては1968年以来、国立ドラッグ研究所(NIDA)による独占供給体制を続けており、民間の資金で行う合法的な研究の実施を実質的に妨害してきた。今回の裁判でも、ビツナー裁判官は、カナビスを使った医薬品開発を目的としたFDA認証済研究に対して、NIDAが繰り返しカナビスの提供を拒んできたと認定している。

    カナビスのこのような状態に対して、LSD、ヘロイン、MDMA(エクスタシー)などの第1類の規制薬物の研究では、複数の民間業者から入手可能になっている。連邦法では、合法的な研究に使うためのカナビスを含む第1類の規制薬物に関して、適正な競争を促して供給が途切れないように適切に扱うことを求めているが、カナビスについてはいまだにNIDAの独占が維持されている。ACLUは、DEAがクラカー教授のような他の供給源を認めないことでNIDAの独占を守っている、と説明している。

    アマーストにあるマサチューセッツ大学の植物・昆虫・土壌科学部で医療植物研究プログラムを率いているクラカー教授は、「患者さんや科学者、研究者は、映画のキャッチ22のような板ばさみ状態に押し込まれているようなものです。DEAは、FDAがカナビスを医薬品として認証していないことを根拠にして患者さんを逮捕し続けていますが、一方では、FDAにカナビスを医薬品として認めさせるのに必要な研究自体をできないように妨害しているのです」 と語っている。

    今回の議員の書簡の他にも、この問題に関しては広範な団体がDEAの書簡を送り、クラカー教授を支持している。そうした団体には、全国公衆衛生政策協議会、全国弁護士会、白血病&リンパ腫学会、アメリカ・リンパ腫財団、多発性硬化症財団などのほか、統一メゾジスト教会、アメリカ長老派教会などの宗教団体も加わっている。さらに、マサチュセッツ州選出のジョン・ケリー上院議員とエドワード・ケネディ上院議員もクラカー教授を支持する書簡を以前にDEAに送付している。

    クラカー教授の計画を後援しているのが非営利の製薬団体サイケデリックス多分野研究連盟(MAPS)で、規制認可に向けた法的支援や設備の提案をしている。MAPSでは、カナビスにFDAの要求する医薬品としての安全性と効能があることを示す臨床研究をデザインして資金提供することで政府の認可を勝ち取ることを目指している。MAPSがクラカー教授に協力して活動するようになったのは、クラカー教授がFDA承認済みの研究へのカナビスの提供をNIDAに申請して2度にわたって拒否されたからだった。

    ハーバード大学で、カナビスが医薬品としてFDAの認証を受けた場合にどのように規制管理する方法があるかを研究して学位を得たMAPSの創始者リック・ドブリン代表は、「医療カナビスを科学的に評価することが今ほど必要にされたことはありません。何故、DEAはこれほど長くクラカー教授を待たせるのでしょうか? それは、FDAにカナビスを検証する機会を与えてしまうと、医療使用が認可される公算が強いことをDEAが知っているからなのです」 と話している。

    今回送付された書簡:
    U.S. House of Representatives’ letter

    DEA行政法判事、連邦の研究用カナビス独占供給体制に反対判決  (2007.2.15)
    アメリカ連邦政府当局、バポライザー研究の許可申請を拒絶  (2005.9.1)
    抑圧される医療カナビス研究、真実の発覚を恐れるアメリカ政府  (2004.2.11)

    カナビス独占供給体制を崩そうとする今回の試みの経過は次のサイトに詳しい。
    DEA Lawsuit Supporting Prof. Craker's Proposed UMass Amherst Marijuana Production Facility

    DEAをめぐる大きな行政裁判は1988年にも行われている。この時の裁判は、カナビスが、医療価値がなく中毒の恐れが強いとされる規制薬物法第1類に分類されていることに対して、医療価値を認めて第2類に分類を変更することを求めたもので、過去最大級の膨大な資料が検証された。

    その結果、DEAの行政法判事であるフランシス・ヤング裁判官は分類の変更を支持して、「天然のカナビスは、現在治療効果の知られている薬物中でも最も安全なものの一つであり、規制薬物法の規定に従って、カナビスを第1分類から第2分類に移すことが必要である。・・・患者の苦しみとこの薬の持っている恩恵との間に、DEAが立ちはだかることは道理に適わなず恣意的で偏っていると言わざるを得ない」 と裁定を下している。

    しかし、この判決は拘束力を持たないために、DEAのジャック・ラーワン局長は、翌年、医療カナビスを 「邪悪なイカサマ」 だと非難してヤング裁判官の勧告の受入れを拒否している。

    カナビスの医療利用の歴史
    アメリカの医療カナビス年表

    また、現在では、アメリカ政府がカナビスに制癌作用があることを30年以上も前から知っていたことが明らかになっている。実際、政府はその事実の発覚を恐れて、こうした科学研究を事あるごとに隠蔽してきた。

    1974年、連邦政府の依頼でカナビスの研究を進めてきたバージニア医学カレッジのチームは、培養液とマウスを使った実験でカナビスが悪性腫瘍細胞の成長を抑えることを発見したが、アメリカ政府はこの研究を中止させて、以後カナビスと癌腫瘍に関する研究には資金を出さなくなった。

    1976年には、フォード大統領が合成THCを作るための研究だけを製薬会社に認め、大学など一般のカナビス研究への助成をすべて打ち切っている。また、1983年には、レーガン/ブッシュ政権は、アメリカの大学図書館や研究者たちに対して、1966年から1976年までのカナビス関連の研究論文を蔵書からすべて廃棄することまで要請している。

    さらに、1990年代半ばには、カナビスの毒性を発見するために大規模な毒物学研究プログラムが実施されたが、臨床研究の一つがマウスとラットに長期間にわたり高濃度のTHCを投与して無投与の対照群と比較した結果、悪性腫瘍に対して大きな防御作用のあることを見出している。しかしこの結果も秘密扱いにされた。政府の研究者たちは発見を公表することなく再びお蔵入りさせたが、1997年に研究の草稿コピーがリークされ、その話が全国メディアに取り上げられて発覚している。

    カナビノイド、ガン治療薬への期待、アメリカの偏見と立ち遅れ  (2006.2.16)
    アメリカ政府は1974年には知っていた、隠蔽されたカナビスの抗癌作用発見  (2000.5.31)

    DEAは現在でも、「カナビスには医療価値はない」 という立場を堅持しており、その理由を ウエブサイト に列挙している。

    このウエブサイトは2002年に作成されたもので、当初のタイトルは「医療カナビスの神話を暴く(Exposing the Myth of Medical Marijuana)」 となっていた。しかし、自分たちに都合の悪いその後のカナビスの医学研究の成果を煙に巻くために、(サティベックスの承認を前提に?)現在では、「喫煙医療カナビスの神話を暴く(Exposing the Myth of Smoked Medical Marijuana)」 と変えて、「喫煙」 を前提にした医療カナビスを標的にしている。

    これは、医療カナビスの有効性がますます明らかになってきていることに対抗して、一般受けを狙ってカナビスが悪いものだという印象を読者に植え付けやすいようにするためのトリックになっている。また、取り上げられている理由もその多くの論拠が新聞記事や他のサイトの孫引きなどで正確さに欠け、実際には医療カナビス関係者を相手にしたものではなく、カナビスのことについては何も知らない人たちを誘導して洗脳することを主要な目的にしている。

    このサイトは、一般にはカナビスに対するアメリカ政府の公式見解として扱われており、現在でもカナビス反対派はこれを拠り所に頻繁に引用している。実際のところ、このサイトに列挙されている理由を投げつけられてすぐに反論することは賛成派であっても容易ではない。少なくとも「一般論」だけで応酬してもほとんど通用しない。しかし、少し勉強すれば簡単にからくりを見破ることもできる。

    アメリカ連邦麻薬局(DEA)の医療カナビス神話に反駁

    最近になって、政府の公認カナビスを使った臨床研究も僅かながら行われるようになって来たが、いずれもカナビス喫煙での医療効果を確認している。まだ、規模が小さく件数の少ないが、さらなる大規模な臨床研究の有用性と必要性が示されたことは大きく、アメリカ政府が今後どのように対応するか注目されている。

    しかし、アメリカ政府当局は、2006年に発表されたカナビス喫煙が癌を引き起こさないという研究や、バポライザーの研究などには反論ができず 「ノーコメント」 を繰り返しており、今回の件についても、少なくともブッシュ政権は任期終了までダンマリを決め込む可能性が高い。

    カナビスの喫煙でHIVの神経障害疼痛が顕著に軽減  (2007.2.15)
    カナビスは驚異の薬、喫煙での医療効果が証明される  (2007.3.3)
    エイズ治療研究、カナビス喫煙は 「明らかに医療効果がある」  (2007.6.28)
    医療カナビス新研究、政府の嘘を暴く、カナビスの喫煙はマリノールよりも優れている  (2007.7.13)