オランダで禁煙法開始

コーヒーショップはどう変わるか?

Pub date: 3 July 2008
Author: Dau, Cannabis Htudy House


オランダでは、7月1日から禁煙法が施行され、カフェ、レストラン、ホテル、クラブ、劇場、スポーツ施設、ショッピングセンターなどで喫煙が全面的に禁止された。これは、従業員を副流煙から守ることを目的としたEU法に従ったもので、2004年にアイルランドで始まり、すでにイギリスやポルトガルなど多くの国でも実施されている。


コーヒーショップと禁煙法

だが、オランダが他の国と違うのはカナビスを吸うコーヒーショップがあることで、禁煙法によってカナビスも吸えなくなるのかどうかが注目されていた。当初から禁煙法では、カフェやレストランでも特別に設けられた喫煙室とテラスでは喫煙が許可されることになっていたが、ほとんどのコーヒーショップは場所が狭いために喫煙室を設けることには無理があり、最悪の場合は営業できなくなって、オランダからコーヒーショップが消えるだろうと言う人さえいた。

当然のことながら、コーヒーショップは喫煙するための施設であり、従業員も副流煙のあることを承知で働いているのだから、禁煙法では例外扱いすべきだという意見や、店内で吸えないとなると外で吸う人が多くなってかえって迷惑や危険が増えてしまうと 懸念 を表明する国会議員もいた。

しかし、実際問題として禁煙法の影響をまともに受けるのは普通の小さなカフェやレストランも同じで、禁煙法の実施による顧客の減少を見越して 1600軒ものカフェが売りに出されたり している。また、昨年禁煙法が実施されたイギリスでは、廃業に追い込まれたパブの数が 2006年の216軒から2007年には1409軒に急増した とも言われている。

こうしたことを反映してバルケネンデ首相は、「コーヒーショップを例外にして、他のケータリング・ビジネスだけに禁煙法を適用することはできません。同じように扱わなければ、世間の理解は得られません」 と述べている。


ピュア・ジョイントならOK

しかし当初より、禁煙法はタバコが対象でカナビスは含まれないのではないか、あるいは、煙の発生しないバポライザーを使えば問題にならないのではないかといった疑問もあった。

明確は答えが示されたのは今年の3月末で、アブ・クリンク保健大臣は労働党からの質問に対して、「コーヒーショップでのカナビスの喫煙は、カナビス単独でタバコを混ぜない限りは問題ありません。どうしてもタバコを混ぜて吸いたい人は、野外のテラスや隔離されたタバコ喫煙ルームであれば可能です」 と 答えている

だが、それでもコーヒーショップ側には不満は大きい。オランダでは、カナビスをジョイントで吸う場合は、ほとんどがタバコと混ぜて吸われているのが現状だからだ。

これは、バッズが普及する1980年代以前は、カナビスとしてはハシシが主流だったことが影響している。ハシシはそのままでは燃えにくいのでジョイントにするときにはタバコに混ぜて巻いていたが、現在でもその習慣が一般的に残っており、バッズでジョイントを巻くときにもタバコも混ぜるのが普通になっている。

ほとんどのコーヒーショップは場所的に別室をつくれるほどは大きくないために、店内を敬遠してテイクアウトする顧客が増えることも考えられ、スナックや飲み物の売上がなくなって経営的にも大きな打撃を受ける可能性もある。今回の法律では、もし店がタバコ入りジョイントの喫煙を黙認した場合には2400ユーロの罰金が課されることにもなっている


オランダのピュア・ジョイントとタバコ入りジョイント
オランダのカナビスは効力が強いので、フィルターを長くして細く巻いてある
アメリカのフィルターのない両切りジョイントよりもタール量が少なく、除去能力も高い



禁煙法がコーヒーショップにプラスに働く

アメリカなどでは、ジョイントにはタバコを混ぜないのが普通なので、タバコ入りジョイントは絶対的な習慣とは言えないが、オランダを始とするヨーロッパでは、若者がカナビスを始めるときに周囲の影響でタバコを混ぜるようになり、やがてタバコに中毒してタバコ入りジョイントでなければならないような強い習慣性が身に付いてしまう。このためにコーヒーショップがタバコを混ぜないように求めることは必ずしも容易ではない。

しかしながら、ジョイントにタバコを混ぜることは、燃えにくいハシシの場合のような必然性があるわけではない。伝統といってもシンセミラが主流になってからのせいぜい20年のことに過ぎず、最近では、タバコの値段が高いことや健康指向もあって、この習慣がやがて廃れていっても何ら不思議ではない。

また今回の禁煙法によって、バポライザー の利用が促進されるだけではなく、カナビスの品質そのものも向上するという 見方 もある。現在のカナビスは化学肥料が多量に使われているために、タバコを混ぜないと均一に燃えずにすぐに消えてしまいやすいと言われているが、コーヒーショップでは、適切に有機栽培されてメローに燃えるカナビスを率先して目玉商品にすることも考えられる。

確かにこうなれば、健康面からしても営業面からしても、長期的には禁煙法がコーヒーショップにプラスに働くことになる。


バポライザーを多数設置したコーヒーショップ



ショップの反応

始まったばかりの禁煙法に対するコーヒーショップ側の反応はさまざまだ。

専用の喫煙スペースをつくる余裕のない多くの狭いコーヒーショップでは、「タバコの自動販売機を撤去して、テーブルにタバコの代替になるフキタンポポなどのハーブを置き、バポライザーを増やして、スタッフが目を配るぐらいしかできない」 というところが 平均的現実 なのかもしれない。

確かに、最悪の場合はテイクアウト専門店にすることもできるので、経営に一気に行き詰まるとまで深刻に考えているオーナーはいないだろうが、「主要な収入源が奪われる」 として禁煙法を公然と無視する動きも出てきている。

オランダ南部のティルブルグでは、法律の開始に合わせて13軒のコーシーショップが一斉に 禁煙法を無視する と発表している。すべての店には、そろって行動を起こした理由を書いた食品衛生局宛の手紙が貼り出されている。グループの代表で2軒の大型店を持つオーナーは、「喫煙はこのビジネスの根幹であり、収入の柱でもあります。従って、われわれは禁煙法に協力するわけにはいきません」 と語っている。

政府は、最初の1ヶ月ぐらいは様子を見るとしているので事態が直ちに緊迫することはないだろうが、実際問題として、お客さんが店内で吸っているジョイントを取り上げてそれにタバコが混じっていることを証明していくことは法的にも簡単ではないので、今後の取り締まりがどのように展開していくのかは予想がつかない。


中庭のあるコーヒーショップ


一方、バポライラーを多く設置していたり中庭のあるコーヒーショップでは、禁煙法の直接的な影響は少ない。また、アメリカ人などの外国人観光客の多いアムステルダムのコーヒーショップなどでも、ジョイントにタバコを混ぜて吸う人が少なく、「禁煙法は気にしていない」 というオーナーもいる。

いずれにしても、コーヒーショップでの アルコールの販売が禁止 されたときには、顧客離れがすすんで 閑古鳥が鳴く ようなこともあったが、すぐにもとに戻っている。結局は顧客がどう慣れていくかという問題で、今回の禁煙措置も時間とともに受け入れられていくに違いない。