カナビスと脳に関する最新の研究

カナビス愛好者の説を裏付け

Source: NORML & NORML Foundation
Pub date: 14 Febrary 2006
Subj: Cannabis and the Brain: A User's Guide
Author: Paul Armentano, Senior Policy Analyst
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=6812


最近発行された臨床試験ジャーナル誌に掲載された前臨床データで、カナビノイドが脳細胞の成長を促すことが示されたが、この研究が契機となって脳に対するカナビスの影響についての国際的議論が再び注目を集めるようになってきた。だが、最近の研究は、従来のようなカナビスと認知異常を強引に結びつけようとしてきたエセ科学と違って、カナビスが人に良い働きをしていることを示唆している。このことは、これまで多くのカナビス愛好者の間でずっと語られてきたことを裏付けている。


カナビノイド と ニューロン新生

2005年10月、グローブ&メール誌は、「カナビスは頭の知力を増すことが研究で明らかに」 と題する記事を掲げた。アメリカと世界中のマスコミには同じようなヘッドラインが踊ったが、連邦政府や法執行当局は狐につままれたように沈黙していた。いったい何が大騒ぎなのか?

カナダ・サスカトゥーン州のサスカチュワン大学の研究者は、合成カナビノイドをラットの投与したところ、脳の海馬領域で新生ニューロン神経細胞の増殖が促進され、不安やうつ的な振る舞いが大幅に減ることを発見した。この結果は、「アルコールやタバコも含めてあらゆるドラッグ乱用が大人のニューロンを減少させる」 はずだと予想していた研究者自身も驚かせ、カナビスが脳細胞を破壊するという長年懸案となっていたご託も面目を失うことになった。

当然、この研究の結果をただちに人間にあてはめるのは時期尚早だが、このデータは、カナビノイドが脳には大きな害にならず、たとえカナビスを長期使用したとしても脳機能にはほとんどリスクにはならないという見方を補強するものになっている。また、カナビノイドには不安やうつを緩和する役割があるというこれまでの証拠をさらに確かなものにしている。いずれ、カナビノイドをベースにした医薬品が、プロザックやパキシルのような昔ながらの抗うつ剤のより安全な代替品になる日がくるかもしれない。



カナビス と 神経防護作用

最近の科学は、単に、カナビスが神経毒だという以前の指摘を否定しただけではなく、カナビノイドには、特にアルコールが引き臆す脳のダメージに対して神経防護作用があることを見出している。

皮肉に聞こえるかもしれないが、国立精神衛生研究所(NIMH)が行った最近の臨床前研究の報告おいて、精神活性作用のないカンビノイドであるカナビディオール(CBD)が、エタノールで死滅する脳細胞を最高で60%も減らすことが報告されている。 「この研究は、CBDには生体内神経保護薬としての働きがあることを初めて示したもので・・・エタノールの無茶な摂取で起こる脳の障害を防ぐ・・・」 と研究者たちは2005年5月号のセラピー治療の薬理・実験ジャーナルに書いている。

疾病対策センターのよると、予防可能と思われる死亡事例がアメリカでは毎年数百件単位でアルコールの害により起こっている。これに対してカナビスのオーバードーズによる死亡は一件もない。

当然のことながら、アメリカの神経学者たちは何年も前からカナビスの優れた神経防護作用ことを知っていたが、国立精神衛生研究所も1998年に、天然のカナビノイドには脳卒中や深刻な頭部外傷による脳へのダメージを減らす働きがあると、さも初めて発見したように発表していた。同じような結果は、オランダやイタリア、最近では日本の研究者たちによっても追認されている。

しかしながら、合成したカナビノイド医薬品についても人体内における神経防護作用があるかどうかを探る試みも行われているが、今までのところ明確な結論は出ていない。



カナビノイド と 神経膠腫(しんけいこうしゅ)

あらゆる癌のなかでも神経膠腫(グリオーマ)ほど攻撃的で致死性の癌はない。神経膠腫は脳に発生する悪性腫瘍で、急速に健康な脳細胞を浸食し、外科的処方や通常の薬剤による治療も余り効果がない。そんな中で、治療効果が知られているのはカナビスしかない。

神経腫瘍ジャーナル夏号に掲載されたカリフォルニア・パシフィック医学センター研究所の研究報告によると、人間の多形性グリア芽腫細胞系にTHCを投与したところ悪性細胞の増殖が減少し、また、合成カナビノイド・レセプターWIN-55,212-2を投与してTHCの活性を抑えた場合と比較すると、アポトーシス(細胞自然死)がより迅速に誘発されることが示された。

さらに、研究者たちは、合成代替薬品と比較してTHCが悪性細胞をより選択的に見極めで健康な細胞をターゲットにしない、とも書いている。多形性グリア芽腫と診断された人は、治療を受けなければほとんどの場合3ヶ月以内に死亡する。

以前にイタリアで行われた研究でも、カナビジオール(CBD)には神経膠腫に対して用量依存的抑制能力があることが体外(ペトリ皿上)と動物体内の双方で明らかにされている。また、現在、スペインの研究グループも、手術不能と診断された癌患者の生命がカナビノイドの頭蓋内投与でどの程度延命可能なのか検証を進めている。

最も新しい研究としては、医薬品科学ミニ・レビュー誌2005年10月号に掲載された分析が上げられるが、THCとCBDの脳腫瘍抑制能力に加えて、カナビノイドが、肺の上皮性悪性腫瘍、白血病、皮膚癌、結腸癌、前立腺癌、乳癌などの進行も食い止めることが示されている。



カナビノイド と 神経変性

カナビノイドには、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)などの神経変性疾患の進行を遅らせる働きのあるという証拠も次々と出てきている。

最近の動物実験では、マウスの多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症モデルにおいてカナビノイドが神経変性の進行を遅らせ、抑制することが示され、その結果として、神経科学ジャーナルの論文は、「カナビノイド・システムが病気の進行を司る神経変性プロセスを制限するという仮説を支持する証拠が累積的に集まってきている」 と明言している。

イギリスでは、また、THCとカナビス抽出液をスプレーで投与して多発性硬化症の進行を遅くできるかどうかを調べるために患者での臨床試験が進められている。



カナビス と 認知力

カナビスが認知力にダメージを与えるという主張についてはどうだろうか?

科学文献を再調査した結果からは、「ストーン・バカ」 というステレオタイプな風説を示す証拠は見つかっていない。2005年の春に出版されたアメリカン・ジャーナル・オブ・アディクション誌に掲載された臨床試験のデータによると、長期ヘビーな場合も含めて最大限に見積もっても、カナビス使用には、認知力や記憶力に対して無視できる程度の影響しかない。

ハーバード大学医学部の研究者たちは、脳の磁気共鳴映像を撮って、22人の長期カナビス使用者(生涯平均2万100本の喫煙)と26人の非使用対照群を比較し、両者の間の映像には「何の目立った違いもなかった」 ことを確認している。

以前の研究でも同じような結果が出ている。精神医薬ジャーナル2004年10月号では、双生児比較法で54組の一卵性双子の男子の認知力についてカナビスの長期にわたる後遺症の可能性を調査し、「認知力には長期カナビス使用による顕著な後遺症は見られない」 と報告している。

2003年の国際神経心理学会誌に掲載されたメタ分析でも、「カナビスの長期常用者においても、使用中でないしらふの状態では、神経認知機能に実質的で系統立った影響を見出せなかった。」 また、2002年のカナダ医学会誌の臨床実験でも、「知性全体に対して、カナビスが長期的でネガティブな影響を与えることはない」 としている。

さらに、一般精神医学アーカイブ誌の2001年の研究では、カナビスの長期常用者に1週間の禁煙をさせて、対照グループ(生まれてからカナビス経験50回以下)と10種に及ぶ神経心理テストを実施して比較したが、実質的に何の相違も見られなかった。加えて、「テスト前3ヶ月間カナビスを全くあるいはほとんど使っていなかった前カナビス長期常用者も、対照グループとの間には、どのテストをいつ行ったかに関係なく目立った相違は見られなかった」 と研究者たちは書いている。