カナビスの中毒性と依存性

程度は低く、害削減は容易


結論的に言えば、カナビスにも依存性や中毒性の症状は見られるものの、老若男女を問わず合法的に最も広く使われている精神活性物質であるカフェインよりも低い。


依存性

おおざっぱに言って、ドラッグには、その使われている状態として、使用→乱用→中毒の3段階があるといわれている。段階が進むに従って使用頻度や害の大きさが際だってくる。

その程度を数量化して診断できるようにしようとする試みもさまざま行われてきたが、現在では、アメリカ精神医学会が作成したDSM-IVという診断基準が多く使われている。そこでは、乱用や中毒というような断続的で強い言葉は用いず、「依存性」という幅のある用語を使っている。

要点は、そのドラッグを使って問題が顕在化していても使い続けようとする程度を、いろいろな角度から総合的に判断したもので、耐性、身体的依存性、精神的依存性の3つが柱になっている。House of Lords Report - Chap. 4 - Toxic Effect of Cannabis and Cannabinoid: Review of the Evidence

「耐性」とは、ドラッグを使い続けていると同じ効果を得るために量を増やさなければならなくなる性質を意味している。また、「身体的依存性」というのは、ドラッグの使用を中断したときに、吐き気や嘔吐、発作、頭痛、イライラ、不眠などの身体的な害症状が現れること(離脱症状)を指している。これに対して「精神的依存性」というのは余り明確な概念とはいえないが、ドラッグを連続的に使って(乱用)いて、日常生活にマイナス面の影響が見られるが明確な薬物依存とまではいえない状態をいう。


依存性の基準とその問題点

DSM-IVによる依存性の診断では、次のような7条件のうち過去1年間のある期間に3つ以上がともに存在した場合に依存性に陥っていると判定される。

  1. 耐性が形成される
  2. イライラや不眠などの離脱症状(禁断症状)が現れる
  3. ユーザー自身が思っていたよりも大量・長期間使用するようになる
  4. 欲求が持続して中断または使用量を制限しようとしてもできなくなる
  5. 酔った状態に戻したり、入手のために時間がかかっても厭わなくなる
  6. 重要な社会活動や仕事などに時間を費やさなくなる
  7. 精神や身体状態が悪化しているのが分かっていても止められなくなる

ここで注意しなければならないのは、上の条件を3つだけしかを満たしていないケースであっても、あるいはすべてを満たしているケースであっても、どちらも同じように「依存症の陥っている」ことになってしまうことで、また、それぞれの条件についてもその程度には軽い場合から重い場合まで非常に大きな隔たりがあることも忘れてはならない。

さらに、入手に時間がかかっても厭わないことや、社会活動に時間を費やさなくなるといった条件は、どこでも簡単に入手可能で社会の容認度も高いアルコールのような合法ドラッグと、ドラッグテストを強要されたり違法市場で入手しなければならないカナビスとでは最初から質問にバイアスがかかっているという問題もある。

だが、カナビス議論の場ではほとんどの場合、こうした点は問題にされることはなく、カナビスに依存性が有るか無いかだけに議論が集中する。当然のことながら、それではカナビスの本当の姿は浮かび上がってこない。


カナビスの依存性

●1999年に発表された 全米アカデミー医学研究所(IOM)報告 によれば、カナビス・ユーザーの9%が依存症状を経験しているが 、一方ではアルコール・ユーザーは15%、コカインは17%、タバコにいたっては32%もの人が依存症状を示している。

表3.44   使用人口に対する依存症になった人の割合  (p95)
タバコ 32%
アルコール 15%
カナビス(ハシシを含む) 9%
抗不安剤(鎮痛剤や睡眠剤を含む) 9%
コカイン 17%
ヘロイン 23%


この表は非常に多く引用されているものだが、それだけに誤解も多い。前述した通りに、ここに示された依存性の割合(%)は単に診断基準に合致しているかどうかから出てきたもので、必ずしも依存の深刻度を表わしているわけではない。例えば、アルコールの依存割合がカナビスの1.66倍だからといって、深刻度も1.66倍になるというわけではない。

実際、カナビスの場合は実質的に耐性がないので、すべての条件を同時に満たすことはほとんど考えられない。また、例えば、離脱症状も、アルコールやタバコに比較すればその程度は一般的に深刻度は低い。

IOM報告書でも、「他の大半の薬物に比らべれば・・・カナビス・ユーザーの依存性は比較的稀にしか起こらない。」 (p94) 「要約すれば、カナビス・ユーザーが依存性に陥ることは余りないが、一部の人たちはそうなることもある。しかし、それでもアルコールやニコチンなどのユーザーほど多くはなく、カナビスの依存性は他の薬物の依存性ほど深刻なものになることはない。」 (p98) と結論づけている。


●また、信頼性の高い薬物依存評価方法としてはSDS (Severity of Dependence Scale) が知られている。指標は最大スコアは15で、値が大きいほど依存性が高くなる。SDSを使ったある研究では、ヘロインで12.9、アンフェタミン6.1、クラック・コカイン5.5で、カナビスは2.6の値が得られている。これは、依存性がないとされているLSDの3.1、エクスタシー1.3の中間に位置している。カナビスの害とその削減対策 参照)


●さらに、よく引用されているものとして、反カナビス研究の中心である国立薬物乱用研究所(NIDA)のジャック・ヘニングフィールト博士のデータを表にしたものがある。この表ではカナビスの依存性はカフェインよりも小さくなっている。


国立薬物乱用研究所(NIDA)のジャック・ヘニングフェィールト博士による評価



●ドラッグの害リスクを評価した論文として現在最も新しく総合的で権威あるのが、イギリス政府のドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)の委員長を務めているデビッド・ナット教授が筆頭執筆者となって2007年3月にはランセットに掲載されたもので、ドラッグの害に関して身体的な害、依存性の害、社会的な害の3カテゴリーに分けて、アルコールやタバコも含めて20種類のドラッグの害を 多面的に評価 している。


カナビスと他のドラッグとのリスク比較、害を評価するための論理スケールの開発
The Lancet - Vol. 369, Issue 9566, Pages 1047-1053, 2007.3
スケールは、0=害なし、1=多少害あり、2=害あり、3=大きな害あり


この評価ではいずれもカナビスのポイントがアルコールやタバコよりも低くなっているが、全体的の差はそれほど大きくはなっていない。その理由は、「ヨーロッパではカナビスはタバコと混ぜて吸われるのが一般的で、それが身体的な害と依存性の害のスコアを押し上げる原因にもなっている」 ためで、カナビスの場合は単独で吸った場合の依存性はかなり低くなる可能性がある。

実際、カナビスをタバコと併用している人の依存性はカナビス単独の人の1.7倍になると報告している例もある。(それに従えば精神的依存性1.0、身体的依存性0.5になる)


●また、2008年6月には、ヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)が、カナビスに関する700ページ以上にもおよぶ膨大な報告書を発表しているが、その中に、カナビスとアルコール、タバコ、他のドラッグを比較した表が掲載されている。


A cannabis reader: global issues and local experiences  EMCDDA 2008.6
The public health significance of cannabis in the spectrum of psychoactive substances (523p)


この表を作成したストックホルム大学の社会学者であるロビン・ルーム教授は、「危険性の度合をどの面から比較しても、カナビスの危険性は他のどの精神活性薬物よりも最も低いかそれに準ずる程度であり」、アルコールやタバコが過小評価されているのに比べて、現在のカナビスに対する国際的な規制があまりにも厳し過ぎるものになっていると言わざるを得ないと書いている。


タバコ・ミックスによるニコチン依存

ヨーロッパではアメリカとは異なり、シンセミラが登場するまではもともとハシシが主流だった。ハシシはそのままでは燃えにくいこともあって、タバコを混ぜてジョイントにして吸うのが当たり前だった。この習慣が、バッズが主流になった現在も残っており、バッズでもタバコに混ぜてジョイントにするのが常識になっている。

オランダでは2008年7月から禁煙法が施行され、コーヒーショップではカナビスだけで巻いたピュア・ジョイントは認められるが、タバコをミックスした従来のジョイントは禁止されることになった。

オランダでも、カナビスをボングやバポライザーで吸う時にはタバコを混ぜることはないので、コーヒーショップのお客さんもすぐにピュア・ジョイントに慣れるだろうとも言われていたが、実際にはミックス・ジョイント離れはスムーズに行っていない。この原因の一つは、これまでミックス・ジョイントで吸ってきたためにニコチン依存になっていることが考えられる。

また、興味深いことに、ミックス・ジョイントにしたほうが全体的なTHCの吸引量が増えるという事実が示されている。ライデン大学の研究 によると、1gのカナビスをピュア・ジョイントで吸った場合には平均33mg/gのTHCしか吸引されなかったが、カナビス25%とタバコ75%をミックスしたジョイントでは59mg/gで1.8倍も多くなっている。

これは、タバコを混ぜたほうが燃えやすく火が消えにくいために、高温が持続してTHCが無駄なく気化しやすくなるためだと思われるが、このこともミックス・ジョイント離れを難しくしている原因になっているのかもしれない。


アルコールとの併用で依存性が高まる

カナビス・コミュニティではなかば常識ともなっていることだが、カナビス依存性のリスクはアルコールとの多量併用するとが高まる。これはアルコールを多量に飲む人ほど顕著で、例えば、しばしばアルコールを飲みながらタバコを吸うような調子でカナビスを吸っている人を見かけるが、明らかに異常な感じを受ける。

このことはまだあまり研究されていないが、週2回以上カナビスとアルコールを使った 750人あまりを調査した研究 では、常習的併用あるいは多量のアルコールの使用は、カナビス・ユーザーをカナビス依存症にするリスクを増やす可能性があり、アルコールの使用がカナビス問題を大きくしていると報告している。

また、同様なことはIOM報告にも、「依存性を起こすカナビス・ユーザーはごく少数で・・・依存性が現れたとしても、カナビスを単独で使っている場合は、コカインの乱用やカナビスとアルコールなどの併用した場合ほど深刻なものにはならない」(p96,97) と書かれている。

こうした依存性を避けるには、アルコールを飲みながらその酔いの中でカナビスを吸うのではなく、カナビスのハイの中で少量のアルコールを楽しむように心がけることが大切だろう。


遺伝子配列によって依存になりやすい?

依存性の度合は、自分の意思でドラッグを摂取する自己投与とその結果出てくる報酬行動によって特徴づけられる。

霊長類においては、際立った報酬行動が出てこなければ、次の自己投与行動が引き起こされないが、報酬効果が大きければ繰り返しそのドラッグを使うようになると考えられている。

しかし、カナビスの場合は、ある一定の摂取量を越えると相が逆転し報酬効果が低下することが 動物実験 で示されている。このように摂取量が自己調整により低くコントロールされるカナビスは一般に依存が起こりにくいと考えられている。

一方では、アメリカ・ミズリー州の研究チームが2008年11月に発表した 研究 では、この報酬摂取量がカナビノイド・レセプター1(CB1)の遺伝子のDNAが特定の配列によって高くなり、カナビス依存性のリスクが増えることを見出している。

これは、THCの報酬効果の影響を受けたこの遺伝子がGタンパク質共役レセプターをエンコードするために、依存を起こしやすくするためだと考えられている。


依存性は年齢や環境に強く影響される

このように、カナビスの依存性は他の主要なドラッグに比較して弱いといえるが全くないわけではない。しかしながら、タバコやアルコールの併用による影響を受けやすいという事実をみてもわかるように、カナビスの依存性は、誰にでも同じように起こるものではなく、さまざまな要件によって大きく変化する。

実際、オーストラリアで行われた 1万人規模の調査 によれば、カナビスの依存性は18〜24才前後の無職の若者に多く、併存疾患のレベルも高いという特徴が示されている。反対に、依存しにくいのは、25才以上の勤めていない既婚女性で、併存疾患のレベルは低くなっている。

こうした結果からすれば、カナビスの依存性というのは、誰にでも出る身体的なものではなく、精神的なもので、それも年齢や環境に強く影響を受けると考えることができる。


耐性

「耐性」とは、ドラッグを使い続けていると同じ効果を得るために量を増やさなければならなくなる性質を意味しているが、実際には対象とする期間をデイリーベースにするか、あるいは年以上の単位で見るかによって内容が全く異なる。

最も極端な例はLSDで、1回使うと以後の1週間は強い耐性が形成されて量を多くしてもあまり効かなくなってしまうが、1週間中断すれば耐性は急激に消失して、以前と同じ量でも同じ程度の効果が得られる。

カナビスの場合も毎日連用していると耐性がついて効き方にシャープさなくなってくる。しかし、バッズの種類や摂取法を変えると状況は簡単に変わる。また、実際には、そうした状況では自分から中断して、いったんカナビスを抜いて感度を戻そうとする人が多い。これはセックスの場合と似ている。このように、カナビスのデイリーな耐性はほとんど問題になることはない。

耐性で大きな問題になるのは、長期使用で使用量が増えていくかどうかという点にある。例えば、アルコール依存症は、付き合い程度の機会飲酒から常習的な飲酒に変わり、自らの飲酒行動を制御できなくなって大量飲酒をするようになって重度のアルコール依存症になっていく。この経過は年、あるいは10年単位で進行していく。

こうした長期的な点でもカナビスはアルコールなどとは様相が全く異なる。下のグラフは、アムステルダムとサンフランシスコで同時に行われた調査で、リクレーショナルでカナビスを使う人がどのレベルの酔いを体験しているか示している。


Cannabis in Amsterdam and in San Francisco
Reinarman, et al., American Journal of Public Health , May 2004, Vol 94, No. 5

大半の人は、意識的に自分をコントロールができる2.5〜3.5レベルくらいの酔いに吸う量を自己調整していることがわかる。最も頻繁に使っている時期には高いレベルの酔いを求めようとする傾向が見られるが、その時期を過ぎると半数以上の人が3レベル以下で楽しむようになる。

また、下のグラフは、カナビスを使う人がどの程度の時間をトリップに費やしているかを示している。予想されるように、最も頻繁に使っている時期のトリップ時間も一番長くなるが、その時期を過ぎると大半の人が1〜2時間程度になっている。


Cannabis in Amsterdam and in San Francisco
Reinarman, et al., American Journal of Public Health , May 2004, Vol 94, No. 5


また、2008年のイギリス・ドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)の報告書には次のような表も掲載されている。


ACMD: Cannabis: Classification and Public Health (2008)


表からもわかるように、カナビスに対する依存性も年齢とともに下がってくる(若年成人の数値はIOM報告と似ている)。このように長期的視点から見ると、カナビス・ユーザーの行動は、アルコール・ユーザーのように使用量が増加していくことはなく、むしろ量も時間も減ってくる。こうした点では、逆耐性があると言うこともできるかもしれない。


禁断症状

カナビスでも禁断症状は起こるが、実際的な問題は有る無しの2元論ではなく、その頻度や症状の程度にある。

禁断症状というのは、ドラッグの使用を中断したときに起こる震え・下痢・発汗・不眠・短気・不安・うつ・攻撃的傾向・食欲不振・疲労感などの症状を起こすことを指している。こうした特徴は、ドラッグの連続使用によって身体がドラッグが入っていることが普通の状態になってしまい、体が適応変化を起こしていることを示している。

つまり、禁断症状は、「ドラッグの入った普通の状態」が乱されることに対する抵抗反応ということができ、ユーザーは、快楽を増すためというよりも、「普通」を取り戻すためにドラッグを使い続けたくなる。

カナビス・ユーザーでも禁断症状を起こすこともあるが、外見でわかる程の禁断症状が起こることも非常に稀れで、長期にわたってヘビーに常用しているような例外的にケースに限られている。全米医学研究所(IOM)の報告では、アルコールやヘロインなど身体的に顕著な禁断症状を伴う薬物に比べて「穏やかで期間も短く」、一旦止めたユーザーが再び始めようとする誘惑もあまり起こらないとしている。

実際、ごく普通のカナビス・ユーザーで、自分が禁断症状を経験したり、回りで禁断症状を起こしている人を見たという経験の持ち主はまずいないだろう。一般に、カナビスの使用では、数日間連続して使っているとむしろ効きかたにシャープさがなくなってくるので、自分から中断して、いったんカナビスを抜いて感度を戻そうとする人が多い。


禁断症状の研究

カナビスが禁断症状を示すという報告は1994年にDSM-IV診断基準が整備されてから多く見られるようになったが、 研究の実態 は、ドラッグ乱用研究所(NIDA)から資金提供を受けたものが多い。

彼らはカナビスを1本でも吸えば乱用と言うが、実際にはごく普通のユーザーが実験の対象になることはなく、多くは目的とする結果の出やすいように、何年間にもわたって1日何回もカナビスを吸っているような例外的な超ヘビーなユーザーが選ばれる。

また、カナビスの禁断症状とアルコールやタバコの禁断症状を直接的に比較することは意図的に避けて、ごく普通のユーザーでも簡単にカナビスの禁断症状に陥るような一般論に仕立てあげている。当然、マスコミはそのように報道する


●例えば、2001年の研究 では、14年間1日平均4回カナビスを吸っている超ヘビーなユーザー12人を対象に、最初の1〜5日はカナビスを吸い、6〜8日目は中断し、9〜13日は再び喫煙し、14〜16には再び中断してもらって調べたところ、中断期には、顕著な食欲の低下、睡眠困難、体重減少、カナビスに対する渇望が見られたとしている。

しかしながら、この研究で最も不可解なことは、中断期の変化を被験者の前後と比較しているだけで、同じ実験をタバコやアルコールの常用者に対しても同時に行ってそのデータと比較しようとしていない点にある。一般の人のバランスある理解を得ようとすれば、カナビスの中断期の状態をタバコやアルコールあるいはカフェインの中断期の状態と比較しなければ説得力がないが、この研究ではそれを無言で避けている。


●また、禁断症状の研究では対照群を使ったものはほとんどなかったが、2008年1月になって、タバコの禁断症状と対照比較した小規模の 研究 が発表された。この研究では、カナビスとタバコを常用している12人を対象にして、いろいろな順序でカナビスまたはタバコの一方、あるいは両方同時に中断させて、生理検査とイライラや睡眠の困難さなどの聞き取り調査で禁断時の症状を調べている。

その結果、カナビスまたはタバコを単独で使っている人の場合の禁断症状の程度は同じようなスコアで、タバコの中断では不安や怒りなどの気分障害が多く見られたのに対して、カナビスの場合は睡眠障害が多かったと報告している。

この研究の問題の一つは、カナビスとタバコを併用している常用者だけについてしか取り上げておらず、タバコを吸わないカナビス・ユーザーについては何も調べていないことが上げられる。

また、この研究では中断期間を5日間に設定しているが、タバコの長期間常用者では中断後の切望感が数年も続くこともあり、このような短期間では禁断による影響を十分に反映していない可能性もある。また、禁断症状に簡単に影響を与えるアルコールの使用状況については何も触れていないが、アルコールはカナビスの依存性を高める ことが指摘されており、それが影響している可能性もある。


●カナビスで禁断症状が出ることはそれほど頻繁でないために治療法まだ十分に研究されていないが、現在、リチウムや経口THC(マリノール)を使った方法などが報告されている。

2008年2月に発表されたニュージランドの 予備研究 では、カナビスを毎日9年以上使っている成人で治療を希望している20人を対象に炭酸リチウム500mgを1日2回7日間投与して、禁断症状の身体・精神スコアをモニターし、14、28、90日後にもスコアを集めるとともに、尿検査を実施してカナビスの使用状況を調べている。その結果、88%の人がカナビスを使う頻度が減り、全体の29%の人がカナビスを全くやめることができたとしている。しかしリチウムの副作用としては、吐き気、嘔吐、身震い、筋収縮、食欲不振、頭痛などがあり、カナビスで治療できるというパラドックスもある。

また、2007年1月のアーカンサス大学の 研究 では、8人のカナビス常用者を対象に、40日間に3回5日の中断期間をはさんで実験が行われた。中断期間には、1日3回、プラセボ、10mg(1日30mg)、30mg(1日90mg)のマリノールのいずれかがが被験者与えられ、期間以外はいつも通りにカナビスを吸うようにして、中断期の症状の変化を比較した。その結果、経口THCが少ない量でも禁断症状の改善が見られたが、量が多い場合にはさらに大きく改善し、その後のカナビスの使用量も減った。

いずれもまだ初期的な実験に過ぎないが、特に経口THCを使う方法はカナビス入りのクッキーなどに置き換えることができると思われるので手軽に試すことができる。確かに、カナビスを食べた場合には効果が持続している間はカナビスをそれほど吸わなくなる。クッキーを作る際には、効力を平均化して長時間にわたって吸収されるように加工すればより好ましい結果が得られるだろう。


依存性への対処

カナビスの依存性どう対処するかといっても、まずどのような依存性を問題にしているのかをはっきりさせる必要がある。
  1. 嗜好利用で依存性に陥らないようにカナビスを使う
  2. 嗜好利用で依存性に陥った場合にどうすればよいか
  3. 医療的にカナビスを使い続けなければならないない患者の場合は

まず、痛みや精神病の緩和に常時医療的にカナビスを使っていて止めることができない場合は、糖尿病患者が一生血糖降下剤を服用するのと同じで本来は依存しているとはいわない。しかし、医療カナビスを認めない立場からすれば嗜好利用と同じように依存性に陥っているということになる。しかし、これは医療の問題ではなく政治の問題ということができる。

また、ごく普通のカナビスユーザーが依存性の陥らないようにするためは、カナビスをリスペクトして節度ある使用を心がければ、容易に害削減ができる。基本となるのは、

  • 高い効力の良質のカナビスを少しだけ使う(最初に量を決めておく)
  • 品質の悪いものはやらない。(惰性で吸い続けて依存性になりやすい)
  • アルコールと併用しない
  • タバコをミックスしない
  • 週に1〜2日はカナビスを使わない日をつくる
  • ストーンするのは1日に2〜3時間までを限度とする
  • たまに、惰性度 や 乱用度 をチェックする

嗜好利用で依存性に陥った場合も基本的には医療の問題になるが、その原因が、アルコールなどとの多量併用なのか(精神疾患など併存疾患を抱えているケースも多い)、品質の悪いカナビスを惰性で多量に吸ったことが原因なのか、外部環境や年齢的な要因が大きいかなどによって対処方法がまったく異なる。

一般に、カナビスを医療的に使う場合は、効果はハイの状態以下で得られるので多くを摂取する必要はなく、かえって多過ぎると、神経疼痛 や  では逆効果にさえなることも知られている。


カナビスで精神病の予兆をキャッチする

さらに興味深いことに、最近の研究で、統合失調症になりやすい人はカナビスを吸うと、完全に発症してしまう前に何らか予兆が出るので、それを見逃さなければ統合失調症の発症を予見できる可能性のあることが分かってきた。

2008年11月に発表された デンマークの研究 では、いわゆる「カナビス精神病」として治療を受けた609人と、統合失調症あるいはその関連の精神症状で治療を受けた6476人について、一人一人の家族の精神病歴を比較する調査を行った結果、「カナビス精神病は、臨床的に統合失調症と区別するよりも、統合失調症の初期の兆候が現れたと考えたほうが妥当性がある」 とする結論を発表している。

誤解を恐れずに大胆に分類すると、カナビスの効果には、リクレーショナル用途の「高揚」型と、痛みや不安を和らげるための医療カナビス用途の「安堵」型がある。高揚型では普通の状態の気分をアップさせるのに対して、安堵型では調子の悪い状態を普通に戻す。

このことは特に若者の場合に顕著で、大半の人が高揚感を求めてカナビスを使っているが、もし、安堵感を求めてカナビスを使っている若者がいれば精神的な障害が原因になっている可能性がある。逆に言えば、安堵感を求めてカナビスを使っていないかをチェックしていれば、病気の早期発見にもつながる。

たまに皆んなで騒ぐ高揚型と違い、安堵型の場合は、いつのまにか一人で多量にカナビスを依存的に使うようなシーンが多くなる。そのような場合は、統合失調症や鬱など精神病の予兆を表している可能性があるので、次のようなことをチェックする。

  • 皆んなでカナビスをやっても楽しくない
  • カナビスを使うと自分の状態が良くなると思う
  • カナビスを使っていると安心できる
  • カナビスを使っていても、使っているという自覚がなくなる
  • いつのまにか次のカナビスを使っている(チェーンスモーキング)
  • 同じ曲ばかり何度も繰り返し聞いている(無意識の反復)
  • カナビスでバッドになったときに、さらにカナビスを使って良くなろうとする

こうした自覚が多くみられれば精神病の疑いが強いと考えて基本的にはカナビスを止めるべきだ。しかし症状の緩和効果もあるので、どうしても使う場合には依存性に陥らないように少なくとも次のような対処を心掛ける。

  • カナビスの使用量をできるだけ少量にする
  • アルコールとは絶対に併用しない
  • カナビスを入手するときは、精神病に治療効果の高いとされるCBD(カナビジオール)の多いインディーカ系の品種を選ぶ
  • 使用回数と量が増えないように注意する
  • 1回の使用量とインターバルを決めて使う
  • カナビスでバッドになったとき、それを良くしようとさらにカナビスを使わないようにする。ますますバッドになることが多い
  • 医者の医薬品を使っている場合は、カナビスが相乗効果や相反作用を起こさないか注意する

実際、カナビスで子供の精神疾患がよくなる例も報告されている。 医療カナビスで子供のADHD治療、 カナビスは第一選択薬、子供の精神障害、 ジェフリーとの旅路