朝日新聞の誇張と嘘

ジョイント1本吸えば幻覚が見える

神話


2008年11月22日朝日新聞朝刊 「時時刻刻(カナビス汚染とまらない)」 記者、小林誠一

カナビスの幻覚成分であるTHCは、13ミリグラム相当を吸煙摂取しただけ幻覚や幻視が現れる。ジョイント1本吸引しただけで5〜15ミリグラムが摂取されるので、たった1本で著しい精神作用を及ぼすことになる。


事実

この記事には多くの嘘が書かれているが、厚労省の担当者自身が 「自分の都合のいいように組み合わせたに過ぎない」 詭弁を使っていることは、「ジョイント1本吸えば幻覚が見える」 という主張に端的に表れている。

担当者の話として、「WHOの報告書によると… THC・・・3mgで陶酔感を覚え、6mgで知覚・感覚に変化が生じ、13mgで顕著な感覚変化や現実との遊離感、幻視、幻聴が生じる」 と書かれている。だが、実際には WHOの報告書 にはそのような記述はどこにもない。

また、hallucination、visual、illusion、auditory、disengagement、isolation、などというそれらしい単語を検索しても関係のないところにいくつか見つかるだけしか出てこない。

さらに、「WHOの報告書には、有害の根拠がしっかり示されている」 と書いているが、この報告書全体の基調は、明らかでないことが多いのでもっと研究が必要だと繰り返し述べており、「有害の根拠をしっかり示している」 ところはどこにもない。

あえて言えば、14章の「要約」に悪害のリストが掲載されてあるが、どれも根拠や成立範囲は示されていない。しかも、can、may、may not、may lead to、is likely in、といった不確定さを示す単語が多く使われている。(現在では否定されているものもある)

さらに、続く15章1項の「臨床的、疫学的な研究」では、その悪害リストの各項目に対するさらなる研究の必要性を強調している。

例えば、精神病については、「カナビス使用と統合失調症や他の重大な精神障害との関係を調査する比較対照試験の必要性がある。 特に、統合失調症患者がカナビスの使用を中止した場合に、治療改善が見込めるどうかを調べる研究が必要性である。」

脳機能と神経毒性については、「カナビスの大量の使用で引き起こされると言われている無動機症候群に関しては不十分な研究しか行われていない。たとえ、大量のカナビス使用と学校や仕事の不成績とが関連していたとしても、そのような症候群が存在するのかどうか明確ではない。また、一部のカナビス使用者で見られる動機の低下が、他のドラッグの使用のためであるかどうか、あるいは、心理学的な問題にどう関連しているのかについてもまだ十分に明らかにされておらず、さらなる研究を必要としている。」

生殖については、「出産初期の高いカナビス使用率を考慮した生殖力への影響に関する更なる研究が必要とされている。また、不妊症の研究では、カナビス使用による影響を調らべることも必要である。加えて、子宮内で受ける問題の重要性を考慮し、特に早産児の胎児性代謝の広範な研究が必要とされている。もう一つの優先事項としては、母親のカナビス使用と小児期ガンの症例対照研究も繰り返す必要がある。」

…と言った具合になっている。


この結果はTHCの静脈注射で得られた?

さて、「THC・・・3mg・・・」という結果は、何という研究をソースにしているのだろうか? 少なくとも1980年代以降の文献をいろいろ調べてみたが見つけることはできなかった。

現在では、THCによる酔いの影響は、摂取量そのものではなく血液中のTHC濃度に強く関連していることが明らかにされているので、単なる摂取量と酔いのレベルの関連を調べた研究は、そうした知識が当たり前になっていなかった相当古い時期のものである可能性が高い。

THCが単独で分離されたのは、1964年イスラエルのヘブライ大学の ラファエル・マッカラム博士のチーム によるもので、アメリカでTHCの研究が本格化したのは1970年代だと言われている。おそらくこの時期に行われた研究でなのではないか。

しかし、1982年に国立ドラッグ乱用研究所(NIDA)が、アメリカのすべての図書館に書簡を送り、カナビスに関するこれまでのNIDAの文書を蔵書から破棄するように要請して多量の情報が失われてしまったこともあり、その当時の研究を探すことは難しい。

1971年にケンタッキー医学センターのハリス・イザベル博士が カナビスの臨床薬理 という論文を発表していることが知られているが、THC1.8mgを静脈注射すると通例のカナビスの効果(幸福感、快活さ、リラックス感)が得られ、投薬量を4倍にすると一部の人に幻覚が起こりはじめ、さらに最初の8倍にすると、被験者の大多数が錯乱や幻覚を体験するようになった、としている。

厚労省のデータとは微妙にずれているが、2002年に発行されたカナビス専門書に掲載された表にも、静脈注射した場合に酔い始めるのは1mgで、2〜4mgではっきり酔いを自覚できると書かれており、少なくとも厚労省のデータが静脈注射によるものであるはほぼ間違いない。


Comparison of the Effectiveness of THC Application to Humans via Relievant Routes
F.Grotenherman, Cannabis and Cannabinoids 351p, Haworth Integrative Healing Press 2002


THC13mgという量

実際、もしこの実験が静脈注射によらないものであれば、「13mgで幻視、幻聴が生じる」 ようなことは起こり得ない。

例えば、ハイにならないことを売り物にしている舌下型スプレー製剤のサティベックスの場合は、1スプレーにTHC2.7mgが含まれているが、1回で5スプレー使うとすればTHCの量はおよそ13mgになる。つまり、THCを舌下摂取しても13mg摂取しても必ずしもハイになるとは限らないことになる。

また、カプセル入りの経口型合成THCであるマリノールの場合では、10mgで弱いハイ、20mgで人によって強いハイを引き起こすことがあると言われている。マリノールの場合は消化器官で吸収されるために、THCの一部が11-ハイドロキシーTHCに代謝して効力が数倍に強まるこのが知られており、それを勘案すればTHC13mg程度の経口投与では決定的なハイにはならないことになる。


静脈注射の問題点

これらのことから、THCの摂取量と酔いのレベルを調べたこの研究は静脈注射によって行われたと考えざるをえないが、現在では、THCを静脈注射して酔いの状態を決めることには決定的な問題があることが知られている。

2008年3月に、『Should I Smoke Dope?』 というタイトルの BBCドキュメンタリー が放送されたが、番組の終わり近くで、THCのみと、THC+CBD (カナビジオール)をミックスした溶剤を注射する実験が紹介されている。

実験を受けた女性ジャーナリストは、ミックスの場合は気持ちよさそうな笑いを伴った体験をするものの、THCのみでは、恐ろしいパラノイヤに襲われ、「精神をずたずたにされて、もうこりごりだ」 と語っている。

Should I Smoke Dope? Part5 (YouTube)

この実験では、どの位の量のTHCを使ったのか、血中濃度変化、チェックリストのスコアなどの詳細については守秘義務があって明らかにされていないが、純粋のTHC注射ではパラナイヤ傾向が顕著に出ることが示されている。

だが、ほとんどの天然のカナビス は、THCばかりではなく、THCの効力を鎮めるCBDなどのさまざまな成分を含んでいるので、厚労省の主張するような酔いかたはしない。


酔いのレベル

カナビスの酔いのレベルは通常のニュートラルな状態を基準にして、6段階に分けることが多い。上に行くほどカナビスの影響が大きくなるが、カナビスの摂取量とも密接に関連している。また当然のことながら、こうしたレベルは概念的なものであって実際は明確に分けられるものではなく、感じ方も一面的ではなく時間とともに相反したり動的に変容する。


6  Stoned Stoned
ストーンド・ストーンド
宇宙との一体感

5  Very Stoned
ベリー・ストーンド
スローモーション、家の中で迷子になる、神秘体験

4  Stoned
ストーンド
繊細な感覚、浮遊感、幻想的、予知能力

3  High
ハイ
最高にリラックス、食欲、おしゃべり、セックス、コンサート、デジャブ、ひらめき

2  Mild High
マイルド・ハイ
リラックス、音楽が心地よい、クリエイティブ

1  Buzz
バズ
ざわざわ、いつもと違う

0  Neutral
ニュートラル
普通の状態


これらのレベルで、実際にどのような酔いの症状がどのような頻度で起こるかを詳細に調べたものとしては、カリフォルニア大学のタート博士が200人の カナビス・ユーザーをアンケート調査して分析した研究 がよく知られている。

この研究の結果をもとにすれば、厚労省の言う、「陶酔感」 はレベル3のハイ(High)、「知覚・感覚に変化」 はレベル4のストーンド(Stoned)、「遊離感、幻視」 はレベル5のベリー・ストーンド(Very Stoned)、に対応している。


摂取量が直接効果に結びつかない

例えば、THCが10%のバッズので0.5g(500mg)のジョイントを作ると、THCは50mgということになる。しかし、喫煙では、当然のことながら、吸い込まれることなく分解したり副流煙になったり、吸い込まれても吐き出してしまう分などがあるので、血液に吸収されるのは一部に過ぎない。実際に血液に吸収される率(バイオアベラビリティ)は20%前後なので、10mg程度ということになる。

その点では、新聞記事に指摘は間違っていないが、しかしだからと言って、摂取量が直接酔いのレベルに結びついていると考えるのは正しくない。カナビスの酔いはセットやセッティング、摂取方法などさまざまなことに影響を受けるので、酔いのレベルと摂取量が単純に比例しているわけではない。

静脈注射と喫煙の最も大きな違いは、注射では数10秒で投与することができるが、ジョイントを吸う場合には、一本吸うのには6〜15分以上の時間がかかることだ。何回も繰り替えし吸わなければならないが、当然、吸うインターバル、吸い込むの強さ、煙のホールド時間などの吸い方は人様々だ。


酔いの強さは血液中のTHC濃度で表す

当然のことながら、カナビスの酔いはアルコールと同様に、同じ量を同じ方法で同じように摂取してもいつも同じようになるとは限らないが、アルコールの酔いの程度が血中濃度で客観的に示されるように、カナビスでも血液中のTHCの濃度で酔いの状態の見当をつけることができる。


Time Effects Relationship Following Smoked Marijuana
F.Grotenherman, Cannabis and Cannabinoids 59p,
Haworth Integrative Healing Press 2002


カナビスの血中THC濃度は、吸ったっ場合には肺から吸収されて数分以内にピークに達することが知られている。実際に効果を感じるのはその数分後になるが、その形は血中THC濃度の変化を少し押しつぶした感じでよく似ている。


ピークは吸っている間におとずれる

ある実験 によると、ジョイントを1本吸うのには、急いで吸った時は5分、ゆっくりでは15〜20分ぐらいかかる。パフの間隔は30〜40秒で、回数は15〜30回ぐらいになる。

ジョイントの喫煙時間と血中THC濃度のピークまでの時間を比較した実験では、ジョイントを半分程度吸った時点で濃度がピークに達していることが示されている。


Marijuana Smoking: Factors that Influence the Bioavailability of Tetrahydrocannibinol.


喫煙者が実際にピークを感じるのには血中THC濃度にピークとは若干タイムラグがあるが、慣れれば、一服目からヒットを感じて、数服で体感ピークの状態を予想できるようになる。たいていの場合は、欲ばらずに十分と思う一歩手前のところで中断すると、心地よいピークが体感できる。これは、血中濃度のピークとのタイムラグが影響しているためだ。


吸い方でピークの形は異なる

また、喫煙のよるTHCの吸収の早さは、ピークの形が吸い方によって影響を受けることを意味している。実際、実験でも急いで深く吸い込むとピークが早く鋭くなることが示されている。

このことは、ボングで一気に多量の煙を吸い込んだ場合に、ジョイントよりもピークが早く鋭くなることからもわかる。また、効力の弱いカナビスでは吸うのに時間がかかって、思うようなピークが形成できないことも示している。


Marijuana Smoking: Factors that Influence the Bioavailability of Tetrahydrocannibinol.


しかしながら、常にピークが早く鋭いほうがよいとは限らない。特に医療的にカナビスを使ったり、作業の集中度を高めたり、クリエーティブが仕事をする場合にはある程度持続的でフラットなピークの方が好ましい。そのためには、確実に効く高効力のカナビスを間隔を開けて少しづつ吸ってピークをコントロールすることが必要で、効力の弱いカナビスでは吸う回数が多くなって調整が難しい。


ピークの調整と安全性

カナビス・スモーカーは、慣れれば吸いながら自分の吸う必要量を自然と加減するようになるが、実験でも、ジョイントの吸入量(排気量)が序々に減っていって、前半と後半では約半分になっていることが示されている。


Marijuana Smoking: Factors that Influence the Bioavailability of Tetrahydrocannibinol.


カナビス喫煙に備わったこうした自己調整機能は、摂取してから酔ってくるまでに時間のかかるアルコールやLSDなどには見られない特徴で、カナビスには致死量がない という特徴と相まって、カナビス使用の安全性につながっている。


ピークは最初の数服で決まる

THCの血中濃度変化のグラフを見ても分かるように、摂取したTHCは直ちに代謝されて、ピークを形成した後は、後から摂取したTHCで濃度が増える以上に全体が下がって行く。

つまり、ジョイントを続けて2本吸ってTHCの摂取量を倍にしても、酔いのレベルが2倍になるわけではない。この点では、バイオアベラビリティが100%で摂取したTHCのすべてが直ちに吸収される注射とは全く異なっている。

THCの血中濃度のピークは、最初の数服に含まれるTHCの量で決まる。この点では、一気に多量を煙を吸い込めるようになっているボングを使った場合のほうがジョイントよりもピークが高くなることを意味している。また、高効力のハシシをパイプで吸った場合も同じで、煙の量が少ない分だけ短時間に繰り返し効率よく吸うことができる。


「ジョイント1本吸えば幻覚が見える」 は真っ赤な嘘

だが、実際にはジョイントが最も好まれているのは、多くのカナビス・ユーザーが求めているのは、レベル2のマイルド・ハイ(Mild High)からレベル3.5のハイ(High)からストーンド(Stoned)の中間ぐらいで、それ以上のレベルの酔いは敬遠されるからだ。

また、「知覚・感覚に変化」 の起こるレベル4のストーンド(Stoned)や、「遊離感、幻視」 の起こるレベル5のベリー・ストーンド(Very Stoned)の状態をジョイントの喫煙だけで達成することは難しく、慣れたユーザーが上質のバッズやハシシをボングやパイプなどで短時間に連続吸引しなければ無理だろう。

つまり、「ジョイント1本吸えば幻覚が見える」 という厚労省の主張は、もともとカナビス・ユーザーが注射で摂取することは全くないのにもかかわらず、バイオアベラビリティ100%の注射で得られたデーターと吸うのに時間がかかる喫煙摂取などの 「自分の都合のいいデータを集めて組み合わせ」 てもっともらしく仕立て上げた妄想的詭弁に過ぎない。


カナビスによる幻覚

カナビスでは、明らかに存在しない物が見えるといった完全な幻覚(幻視)は、たとえ摂取量が多くても極めて珍しいとされているが、タート博士の200人の回答者の9%は高摂取量時に何らかの幻覚について体験している。また、他人の顔の回りにオーラが見える体験をしたことのある人は半数近くになっている。

タート博士の被験者たちは、LSDも体験しているカナビス長期使用のベテランなので一度は幻覚を体験している率も高くなっていても不思議はないが、普通のユーザーにとっては、幻覚の起こるレベル5のベリー・ストーンド(Very Stoned)の状態になること自体が相当に難しい。

しかし、そもそも仮にカナビスで幻覚体験をしたからといって危険なのだろうか? 一般に「幻覚」が恐れられるのは、その人が幻覚に支配されて何をするか分からなくなり、それが長期間固定して人格が破壊されるといったイメージがあるためだが、果たしてカナビスの幻覚体験はそのようなものなのだろうか?


体験者としての自分、観察者としての自分

例えば、イギリスの環境交通地域省(DETR)の依頼で行われた交通研究所(TRL)の 運転シュミレーターを使った実験 では次のように結論を書いている。

「カナビスの喫煙では、総合的に見て、特に動体を追跡視認するといった精神運動能力に測定可能な影響を受ける可能性が認められるが、運転時に必要な分散した操作を行うといった高次の認知機能への影響については決定的の損なわれるとまでは言えない。カナビスの影響下で運転しているドライバーは、自分の機能が損なわれていることを意識しているので、運転が難しくなるとスピードを落としてそれをカバーしようとする。」

このように、カナビスでハイになっている人は、アルコールで酔っている場合と違って、カナビスの影響下にあることがわかっているので自然に自分の行動を調整しようとする特徴がある。

実際、大半の人はハイがピークの時は、自分の時間や空間の感覚がいつもと違っていることがわかっているので、たとえ運転に重大な障害になるとまでは感じなくとも、より慎重になって自動車を運転しようとしなくなる。

このようにカナビスの酔いでは、ハイを体験している自分と、その自分がカナビスを使ってそのような状態になっているのを見ている 「もう一人の自分」 がいることを自覚できるというユニークな特徴がある。


カナビスでは幻覚に支配されることはない

アルコールなどの場合は深く酔うと自分を見失ってしまうが、カナビスの場合は、たとえ酔いのレベルが高くて話をしたり体を動かすことができなくなっていても、そうなっている自分とそれがカナビスによるものだと俯瞰している不可分の自分が二人いる。

たぶん、精神科医ならこの状態をすぐに精神分裂とか離人・離脱症と診断するかもしれないが、実際にはそんな対立的なものではない。相互補完的で安心感があって心地よく、一体感があって何も矛盾を感じない。自分が自分でないと感じるようなこともないし、分裂して葛藤するようなこともない。

おそらく、カナビスでは暴力的にならない のは、このこととも関係している。ストーンして体が動かないという面もあるが、運転の場合と同じように、「もう一人の自分」 が自分の行動を抑制している。

また、カナビスでは性感が増したりセックスをしたくなったりするが、デートレイプがない という特徴もある。このことはアルコールの場合と全く違っているが、これも 「もう一人の自分」 が自分を抑制しているためだと考えられる。

カナビスでも 「幻覚」 を見るので統合失調症になるという主張もあるが、その症状の共通性を認めたとしても、しばしば病識がないとされる統合失調症と違い、カナビスの場合はそのことを自覚している自分がいるという点が決定的に違う。