2.カナビスの性質



最高の効果を得るには
カナビスを使った料理で最高のものを最も経済的に作るには、カナビスの物理化学的性質や、消化器系にどのように吸収されるかといったことについていくつかの事実を知っておかなければならない。ここでは複雑な科学を持ち出して、うんざりさせたり混乱させたりするつもりはないが、いくつかの細かい基本を理解することは、最小投資で最大の結果を生む確実な選択をするのにまちがいなく役立つ。


カナビスの溶解性
グラスやハシシの活性成分である THC は水には溶けないが、油や脂肪、アルコールにはよく溶ける。この事実は何千年もの昔から知られており、インドなどハシシを食べる習慣のあるところの料理では、前もってまずバターやギー(液状バター)で炒めて成分を溶かし出してから他の材料に混ぜて使う。もっともこの THC の溶解性については衆知の事実とは言い難く、この文明開化された20世紀のインテリの間でも“グラス・ティー”などと称して、効きもしないのにマリファナの葉や種子、茎などを湯で煮出してハイを得ようと何杯もそれを飲んでいるのにお目にかかる。しかも驚くべきことに、効力のある方の出がらしは捨ててしまっているのだ。確かにグラスが上等で、十分な樹脂が付着でもしていれば、がんばって煮出すと湯の中に少しは溶け出すだろうが、どう見ても油脂系物質を湯で煮て抽出するというのは賢明な方法とは考えられない。

ここで扱う大半の料理では、カナビス樹脂を予め油脂やアルコールで抽出してから使っている。具体的には次のような方法がある。

(1)アルコールに浸して煮る
(2)油やバターで炒めたり煮たりする
(3)単に油やバターに混入する
(4)ミルクのような油と水の乳液に浸し、煮て混ぜる

ミルクは水分中に乳化したバターの脂肪分を含んでいるので、煮ると脂肪の中に樹脂が溶け出してくるのである。この乳化溶解性が、インドで古くからバングとして知られる飲み物のべ一スとなっている。


カナビスの消化
カナビスを食べるのにはいくつかの方法があるが、各々で効き方の度合は変わる。いちばん単純なのは(もっとも食欲はそそらないが)5〜20gのマリファナ、または0.5〜2gのハシシ、0.1〜0.5gのハシシオイルを直接食べたり飲んだりしてしまう方法だ。必要量は出所によって薬の効力も違う上に、人によって耐性が異なるので広範囲に変化する。ストレイトに摂取した場合、消化器系の活力にもよるが、空腹時でさえ効果の発現までに1時間以上は待たなければならない。

しかしカナビスを適当な物質に正しく溶解させれば、もっと少ない量でより早く効果を引き出すことができる。その理由は下に述べるが、第1のガイドポイントとして、次のことがあげられる。
THCはアルコールや油脂類に溶解すれば、一層効果的に吸収される

油脂やオイル類を摂取すると、肝臓はそのシグナルを受けて胆汁を浸出する。この液は粘着性のアルカリ液体で、嚢に集められたのち十二指腸へ送られるが、油脂を乳化して消化吸収を助ける働きがあり、カナビスの吸収にも大きな役割を果たしている。カナビス自体もある程度胆汁の流れを刺激するが、油脂分のない状態では組織に入っても十分な胆汁が出ず樹脂は完全には吸収されない。実際かなりの時間をかけながら数回にわたって断続的に一部分が吸収されるに過ぎない。

食物が胃に入るとこねまわされ、塩酸や酵素が消化をはじめる。胃の中が液状になると、数十秒間隔で少量ずつ十二指腸に送り込まれ、ある程度の量になるまで続いた後、送り出しのプロセスはいったんスローダウンする。そしてごく微量の油脂が腸の毛細管を通じて血液中に直接吸収され、胆汁が活動を始める。油脂が乳化し水の中に油の粒が拡がり、脂肪酸の一部を水溶性に変える。こうなると今度は多量の油脂が十二指腸を通して吸収されるようになる。残りの一部は肝臓の脂肪分解酵素によって小腸で吸収される。消化された食物が十二指腸から小腸下部へ移行し空になると、さらに多くの胃の内容物が十二指腸に送り込まれ、一連のプロセスがくり返されるのである。胃が空になるまでには1〜4時間かかる。

菜食主義者は肉を食べる人よりもグラスでストーンしないという噂があるが、しかしこの説は事実を歪曲した全く論拠のないものである。確かに19世紀初頭の科学論文の中には、肉食動物(魚や犬、豚、ハゲワシ、ふくろう等)がマリファナでいつもすぐ酔った状態になるのに、草食動物(馬や鹿、猿、山羊、ひつじ、牛等)では多量に与えても、効いたにしてもわずかしか効かない、といった指摘か何度か行われている。だが人間は菜食にも肉食にもなることができるし、また食生活がどんな長い間変わらなかったにしても、その消化吸収の過程を考えてみれば、カナビスの楽しさを享受する能力に影響するはずがない。


アルコールと糖
カナビスの樹脂の溶けたアルコールは、たとえ消化液がなくとも極めて簡単に吸収される。胃はもっぱら食物の貯蔵器管として働き、消化の下準備を行う。胃では水や一部の薬品だけしか直接吸収されないが、アルコールもその一つで胃壁の表面から速やかに吸収される。その役割はむしろ運び屋として働き、アルコールと結びついた物質を組織の中に引きずり込むように作用する。また蜜や砂糖などの糖類も腸の毛細管から急速に血液に吸収されるので、やはりある程度運び屋としての役割を果す。しかし THC 自体が糖の中に溶け込んでいなければその意味は限られる。

胃が十二指腸へ食物を送り出すペースはホルモンによって管理されている。このホルモンは小腸に糖や油がある時に腸の粘膜より浸出し、送り出しのペースをスローダウンする。従って糖が多過ぎると胃の送り出しは弱まり、活性樹脂を含んだ油脂は長い時間胃の中に留められてしまうことになる。以上のことは次のようなガイドポイントに要約される。
アルコールや油をベースにした食べ物の中に少量の糖類を混ぜると、THC の吸収をある程度促す。しかし糖が多過ぎると、油脂とそれに含まれる THC の消化が妨害されて逆に吸収が遅れてしまう


調理法の決め方
多くのマリファナクックブックのバカさかげんについては既に少し触れてきた。スパゲッティの中にマリファナを混ぜて食べるなどというアホみたいな料理も散見するが、それらはただ胃袋を満足させるだけに過ぎない。数グラムのカナビスを混ぜ合わせたスパゲッティで腹一杯になったと考えてみたまえ。2、3時間たったところで、ディナーの一体どれ程が吸収されるというのだろう。4分の1? 消化促進剤入りのジュースを飲んだところで3分の1がせいぜいだろう。その上はっきりしていることは、料理に一様に混じったカナビスの樹脂がどれだけ吸収されるのかということだ。その大半が吸収もされず、10メートルもある腸の中をのろのろと進んでいく団子状の食物の中に入ったままになっていて、ハイには何の関与もしていないのだ。

もっともこうした摂取法は、予め十分にストーンしているのであれぱ、わざと吸収を緩慢にして、ハイを数時間に渡って引き延ぱすのに有効かもしれない。食物の消化過程から考えてカナビスの消化は、多かれ少なかれ、最初の3〜4時間で3分の1が吸収されてハイが始まり、次の6〜8時間でさらに3分の1が吸収されハイを維持し、残りの3分の1は結局吸収されず、最終的には下水へのお供物になってしまう、と見てよいだろう。もし大事なグラスの3〜4割を気前よくトイレに流しても平気ならそうするのもよいだろう。しかし最少の投資でより強く、ベターで長いハイを望むなら、次のガイドポイントに従うことである。
少量の適切な食物であればカナビスの吸収を助けるが、多量の食物はただ薬の効カを弱め、無駄にするだけである

同様の理由から、カナビスはちゃんとした食事よりもおやつや軽食と組み合せたほうがよく、それもすでに満腹の時は避けるべきだ。

さらに付け加えておかなければならないのは、カナビスの活性樹脂がアルカリ状態にあるほうが、より溶解しやすくなることだ(わずかだが水にすら溶ける)。酸性の状態では溶解は妨害される。樹脂は、小腸上部のアルカリ液の中で吸収されるのが最も有効だと考えられる。腸の下部でも吸収されるが、おそらく量的にわずかでハイを一層高めるわけではなく、むしろハイダウンした時の無力感やイライラの状態をただ長引かせるに過ぎないだろう。


カナビスは熱でどう変化するか
「カナビスに加えられる料理の熱の影響はどんなものなのか? 効力を損いやしないだろうか?」 といった疑問がしばしば聞かれる。

普通の状態で料理する限り、感知できるほどの効力の低下は導かない。ほとんどの場合、活性成分を燃焼・破壊するほど高い温度であれば、料理そのものがダメになってしまうだろう。

THC の効力の喪失は、通常、酸化によって進行する。カナビスを真空状態にでも置いておかない限り、必ず酸化はおこる。フリーザーに入れておくと酸化率はゼロに近くなるが、室温では徐々に酸化は進み、数ヵ月で10%のロスが生じる。温度が高くなればだんだんロスも多くなるが、熱帯地方の温度ぐらいまでは極端に増えることはない。しかし、例えば60℃以上になると同期間保存でかなり目立ったロスが生じる。

確かに料理の温度は酸化過程を促すに違いないが、通常の料理時間では多くのロスを生じるには短かすぎる。調理時間が長くなるに伴って、そのロスを埋め合わせるには、下記の表に従ってマリファナの量を増やせばよいだろう。これらの増加量の程度を見ると、さほど気にするほどの影響はないと言ってもよい。

料理に使うマリファナの増量倍率
75℃ 100℃ 125℃ 150℃
30分 1.0 1.1 1.2 1.3
60分 1.1 1.2 1.3 1.4
90分 1.2 1.3 1.4 1.5
120分 1.3 1.4 1.5 1.6


むしろ多くの例では、調理することによってマリファナの効力が増加する可能性すらある。刈り入れられたばかりの新しいマリファナでは、THC のほとんど、あるいは全部が THCA(THC 酸)の型状になっているが、THC と THCA の割合は収穫の時期や育った気候などによって変化し、未成熟の草や北で育ったものほど THCA の方が多くなっている。この THCA 自体には活性はなく食べても効かないが、乾燥すると脱炭として知られる自然の作用で活性のある THC に変わる。自然状態では大半の THCA が2年間ぐらいで THC に変換する。だが、残念なことに同時に THC の酸化も進行し、全体では効力は失われてしまう。

もし酸素のない状態で脱炭作用をすすめることができれば、酸化は同時には起らないことになる。酸素を取り除いたチッ素と二酸化炭素の気体の中で THCA を100℃で75分間熱すると、すべて THC に変換することができる。また、酸素のある空気中でも未転換の THCA を含んだマリファナを加熱すると、酸化も起るがそれ以上に脱炭作用を促進させることができる。

加熱による脱炭作用は実際にはいろいろな場面で起きており、例えばマリファナを吸うと炎によって多くの THC は破壊されるものの、肺に達する THCA はすべて活性化している。また、伝統的なカナビス料理でもしばしば前もってオイルやバターでガンジャを炒めるが、これは油でカナビスを酸素から隔絶する一方、熱で THCA を活性化していることになる。当然のことながら加熱による活性化は、マリファナからハシシオイルを抽出するときや、加熱または煮る工程を使うすべてのハシシ製造法にも同様に起っている。

従って熱がカナビスに与える影響を要約すると次のように言える。
加熱し過ぎやオーバークッキングすると THC の活性は破壊されるが、通常の料理温度と時間内で調理すれば、THCA を活性化して効カを強めることができる

筆者は以前、田舎でマリファナを育てている友人達からディナーに招かれたことがあった。その時、採りたてのマリファナの葉の入ったサラダを御馳走になった。気の利いたシェフは吸収をよくしようとオリーブ油をまんべんなく混ぜ合わせておいてくれた。皆はディナーに先だってそれをたらふく食べた。香りのよい非常に美味なサラダだったが、誰一人として一向にストーンしなかった。最初はマリファナが弱かったのだろうと思ったが、後で太陽で乾燥させた同じものを喫ってみたら、自家製のものとしたら最高に効くグラスで、植物の下部の葉ですらよく効いた。そこで皆んなは理由を悟ったのだった。北で育ったこのグラスは、収穫したばかりのときはほとんどの THC が酸の型(THCA)になっていたのだ。乾燥させて活性化していなかったので、まるでレタスを食べているのと同じことだった。もっとも、大きなサラダボールにたっぷりと入ったマリファナの葉を食べるというアイディアは、それだけでターンオンしてしまうものだったけれども。


カナビスと食欲
ことカナビスクッキングに関する限り見落してはならないのは、カナビスの食欲増進作用についてである。この現象はこれまでも臨床的研究においても、プライベートな体験からも注目されてきた。

グラスを喫うと人は時々食いしん坊になるが、グラスを食べた場合は一層進んで人を味の色情狂に変えてしまうことも多い。ある種のグラスは他のものよりもこの傾向が著しい。だが食欲に負けて食物を多く摂り過ぎると、カナビズの体内への吸収を遅らせたり、全く吸収されず体外へ排出させたりする結果となるので、カナビスを食べる際には食器戸棚や冷蔵庫を開けっぱなしにしないように注意したほうがよい。この点、喫った場合は胃ではなくもっぱら肺からカナビスが吸収されるので、腹具合の影響は食べた時のほうがより大きくなる。

いずれにせよ、カナビス料理での食物の摂り過ぎは、ハイを感ずる以前に既にハイの状態を壊してしまう。とりわけ消化器系の弱い人の場合、カナビス料理は嘔吐感を催すことがある。胃はしばしば消化の困難な食物を拒絶するように働くが、多量の食物はその状態を一層悪くしてしまう。たとえカナビス料理に何ら問題のない人でも、おなかを満ぱいにしてしまうと、いい気持ちになろうとしているのにガックリと調子を崩してしまうこともある。

また、覚えておくとよいのは、ピーク時の食物はハイを引き下げるということである。もしストーンし過ぎて戻りたくなった時などは、気持ちのよい食事や適当なおやつ、あるいは一さじの蜜を溶かした湯が地に足を近づけてくれる。


カナビスと味覚
昔ながらのカナビス料理にしても最近のものでも、その多くは良くないとされるマリファナの味を何とかカバーしようと工夫した結果出来上がったものである。マジューンはその典型的な例だ。甘みをつけ、シナモンや丁子、カルダモン、ナツメグ等の調味料でたっぷりスパイスして、完全とは言えないまでも適当に麻の味を隠そうとしている。本書でもこれに類した料理をいくつか取り上げているが、これは単に古典的というだけで片付けてしまうには余りにも楽しく、また十分に理屈にもかなった料理と言えるからである。

だが本書の料理の大半は、カナビスの味も正しく下ごしらえした上で相性のよい材料と混ぜ合わせれば美味なものになる、という前提に立って工夫されている。多くはカナビスを調味料の一種として扱い、それが欠落すると料理の味自体も全くシマリのないものになってしまう。