ザ・キャンサー・ドラッグ

癌はカナビスの多様な面を教えてくれる


ダイアナ・ワグマン

Source: Los Angeles Times
Pub date: December 22, 2007
Subj: The Cancer Drug
Author: Diana Wagman
Web: http://www.mapinc.org/norml/v07/n1484/a02.htm


ああ、癌。人はそう診断されれば自分が死の病に取りつかれているのだと自覚する。確かに、そうなっても95%の人は詳しく知りたくもないと思うだろう。だが、日常のささいなことまで何にでも興味を抱くようになる人も5%はいる。

例えば、オーディション型リアリティ番組として有名な 「アメリカズ・ネクスト・トップモデル」 は、化学療法によってではなく5キロkg痩せることができた人なら楽しく見ていられることがわかる。また、化学療法中でもバニラはよい香りがするけど、バニラ・ウエハーを食べようとするととたんに気持ちが悪くなるし、つけまつげが本当に役に立ってくれることもわかる。なければ、私の目はほこりを吸い寄せる磁石になってしまう。

でも、私が癌から学んだ最も大きいことは友人についてだった。だれでも思うような単なる友情とかそういうものではなくて、どのように私たちの家族に付き合ってくれているかということだった。子供たちを連れてきてくれたり、私をお医者さんのところまで連れていってくれたりしながらも、私の状態が悪いのに気づかない振りをしてくれる。そして最も重要なことは、私がそうした人たちなしでは生きられないことを知ったことだった。

それだけではない。それ以上に本当に驚いたのは、古くからの親しい友人たち、結婚して、親になって、仕事も持っている友人たちが今もカナビスを吸っていることだった。冗談を言っているわけではなく、思いもよらない人たちがジョイントやバッズや秘密に調剤した食べ物などを差し入れてくれたのだ。

もしDEAがこのことを知ったら、家のドアの前にカメラをセットしてカナビス取引の現場を厳重に監視していたかもしれない。相手が詩人とかミュージシャンならたいして驚かないかもしれないが、意外にも弁護士や会社のCEOだったり共和党員だったりする。イデオロギーなどに関係なく、私の友人たちの多くはストーナー(カナビス愛好家)なのだ。

正直に認めれば、大学のときは、私もみんなとカナビスを吸っていた。当時はみんなやっていたし、パーティでシラけたくもなかった。それと、甘い飲みものは太るので、カナビス以外ではアルコールしかないと思っていた。だが、ずっと前にバーボンをストレートで飲むことを知って以来、ずっとそれだけでハイになっていた。お蔭で、子供たちに真似されないように隠してまでカナビスをやらなくても済んだ。言い訳じみているけれども、子供たちにはカナビスに手を出してはダメと教えている。

友人たちもみんな私と同じようになっていると思っていた。でも、それは間違いだった。私が化学療法をやっていると分かると誰もが気遣ってカナビスをくれるので、どうしてなのか興味が湧いてきた。何で40とか50とかいい歳をした人がまだカナビスでハイになったりしているわけ? 

いろいろな人に聞いてみたところ、痛みの緩和が1番の理由だった。親たちがティーンエイジャーたちに心配するような精神的な問題ではなく、実際の身体的な痛みのためだった。われわれはみんな体が劣え始めて、坐骨神経痛とか五十肩とか、腸の過敏症とか偏頭痛などが出てくる世代になってきている。そんな状態で、実際にカナビスを数服すれば何とか痛みを鎮めることができるのだ。

第2の大きな理由は不安だった。たぶん、中年のカナビス・スモーカーに対する政策とか、戦争、環境、市民の自由の制限、その他もろものの細かい事柄が原因になっている。

明らかにわれわれの世代の人間のなかには、カナビスを初体験した当時は考えもしなかったような忍び寄る生活の辛さを和らげるためにドラッグを使っている人もいる。それは基本的には大学時代と何も変わらない。私がカナビスを使ってリラックスしたのは、自信を取り戻したり、体重が増えすぎたのを忘れるためだったり、あるいは自分が将来に不安を持った冴えない大学生であることを紛らわすためだった。

今カナビスを吸ってリラックスするのは、思うようにいかなかった出世や仕事のことを忘れたり、自分の将来だけでなく子供の将来への不安を振り払ったりするためだったりする。これは、私の父が仕事から帰ってきてマッティーニを何杯か引っかけたり、あるいは、母がイライラしたときに小さな処方ピルを飲んでいたのとどこが違うのだろうか? あえて言えば、カナビスが全く天然のものであるところが違っているが。

私は自分の癌の専門医に、癌患者がカナビスを使うことの良い点と悪い点を尋ねてみた。先生は、25年前に化学療法にともなう吐き気や関節痛、疲労などについてカナビスにどのような効果があるのか調べる研究に加わっていたと言っていた。

確かにカナビスには効果があるし、本当に良くなる人もいたが、現在では、耐えられないような吐き気や痛みに効くエメンド、デキサメタゾン、ロラゼパムなど新しい医薬品が開発させて大きく進歩しているという意見だった。にもかかわらず、今でもカナビスを使っている人はそれが好きだからで、巨大な製薬コングロマリッドよりも地元の農家を支援したいという気持ちからではないかと言う。

化学療法で最悪の状態になったときには、制吐剤は全く効かずに便器にしがみついている有様だった。私の体は癌を直そうとして毒になるものを受け付けたくないのだと思った。それならカナビスを試してみようと思った。火と付けた。効く。よく効く。崩れるようにソファに横になった。ファッション・デザイナーが競う合う 「プロジェクト ランウェイ」 をテレビで見ながらぼーっとしていられた。吐くこともなく深呼吸することができた。

だが、15才になる娘はショックを受けていた。小学校の薬物乱用予防教育(D.A.R.E.)の成果がありありと顔に出ていた。友人が娘にカナビスが効いて私が良くなっていると説明してくれた。彼女は、カナビスをくれた人でもなかったし、ユーザーでもなかったが、カナビスってすごいのね〜と言うと、娘もしぶしぶ頷いていた。しかし、私には娘が本心ではそう思っていないことは分かっていた。

私は完全に元気を取り戻した。次にカナビスを吸ったときには、私がカナビスを吸っているのを子供たちに気付かれないように寝室の換気扇を回して外に煙が出て行くように注意した。普通は、子供が親に見付からないようにするものだが、私の場合は逆だった。

癌で最もつらい痛みは差し込みや、ひっかき行動、出血で、いつまで続くかわからない恐怖感に襲われる。病院に駆けつける余裕すらなく、全くコントロール不能になってしまう。私のお医者さんは瞑想することを奨めてくれた。確かにその通りだ。それから、死については考えないようにして静かに座っている回数を多くしようと思った。

また、アルコールの味がすっかり分からなくなってしまった。腑抜けたような弱いホワイトワインですら吐き出してしまう始末だった。他にどうしようもなくなると、ちょくちょく友人のメアリージェーン (カナビス) に会いに行った。

化学療法を済ませたある日の夜中のことだった。夫は町の外まで出かけて留守だった。気持ちが悪くなって、一服すれば眠れるかもしれないと思って小さなパイプに火をつけようともがいていると、それに気がついた息子が私のベッドのところに来てマッチに火をつけてくれた。私の手をパイプの柄に添えて吸い口を近づけて吸わせてくれた。息子には全部わかっていることがとてもうれしかった。私が落ち着くまで一緒にいてくれた。母と息子の新しい絆を感じた。

もう一つ言うことが増えた。ありがとう、癌。

ダイアナ・ワグマンは、小説家で映画の脚本家としても知られている。これまで発表した3冊の小説はいろいろな賞を獲得している。現在はカリフォルニア大学ロスアンゼルス校などで小説や脚本の書き方を教えている。