実際の発症例は?

カナビスが統合失調症を引き起こしていると主張している研究を調べてみると、標準的な診断基準で統合失調症になったと診断されている人の数は、実際には驚くほど僅かでしかいない。

まず驚くのが、カナビスと精神病の調査研究では、1件を除いて正式な診断基準で統合失調症を診断しているものがないということだ。大半が精神病の症状を体験したことがあるかといったチェックシート調査でスコアを集計して統計的に比較したもので、きちんとした診断はしていない。


スエーデンの研究

唯一、正式な診断基準で調査したスエーデンの研究では、調査人数も5万人と多く、カナビスによる統合失調症のリスクを3.1倍としている。しかし、実際に補正を加えると、カナビス・ユーザーとノンユーザーの統合失調症の発症率にはほとんど差がなくなり、カナビスを使っていたから統合失調症になった人はいてもほんの僅かということになる。


ニュージーランド・ダニーデンの研究

ニュージーランド・ダニーデンの研究では13才時点での診断やそれ以降のフォローを実施し、インタビューも専門家が家族も交えて行うなど、最も信頼できる研究と評価されている。

当然、きちんとした診断基準で判定を行っているが、統合失調症の診断基準(病状が6ヵ月以上継続)を満たさない統合失調症様障害(病状が1〜6ヵ月の短期)も含めて統計処理をしている。その点で数字が水増しされているとも言えるが、それでも、カナビスが原因で統合失調症および統合失調症様障害になった人の数は、759人中3人だけしかいない。

さらに、統合失調症と統合失調症様障害の割合を1:2と考えれば、この研究で、カナビスによる統合失調症を発症した人は1人しかいないことになる。


デンマークの研究

デンマークの研究 は、カナビスで何らかの精神病的症状を見せた人のうち 約半数(44.5%)が統合失調症に発展する とセンセーショナルに伝えられて有名になったが、この数字は病院に来た患者について分析したもので、カナビス・ユーザー全体での話ではない。

実際には、この論文では、デンマークのカナビス誘発性精神障害は、10万人年あたり2.7人にしかならないと指摘している。


イギリス議会の報告

2006年1月に、クラーク内務大臣がカナビスのダウングレードを変えず戻さないと発表してから、2ヵ月後、イギリス議会で、カナビスで精神病になった人の数について質問が行われたが、保健省の政務次官は、正確な数字はプライバシーもあって言えないが、集計されている統合失調症全患者約4万人に対してカナビスに関連した患者はごく少数だと答えている。(Mental Illness resulting from Cannabis Abuse

一般に、ごく少数という言い方は実質的に10人もいないことを意味しているとされているが、次官はさらに、カナビスが引き起こした精神病なのか、あるいは既に起こっていた精神病にカナビスが影響したのか区別することが重要だと述べており、全くいないか、あるいは多くてもせいぜい数人程度であることをほのめかしている。


カナビス特有の統合失調症はない?

こうしたことからも明らかなように、カナビスが統合失調症を引き起こすとしても、その数はごく僅かで人口統計に表れるほどではない。また、カナビスならでの特徴をもった統合失調症もないことがわかる。もし、そのような特徴があるとすれば、調査研究でも区別してきちんと取り上げているはずで、診断にも反映されていなければおかしい。

結果として言えるのは、統合失調症を起こす人は、ほとんどカナビスとは関係なく発病しているということで、もし関係があるとしても、発症の時期を早めたり、あるいは病気の期間を長くするといった影響がほとんどなのではないか。