カナビスと精神病 Q&A




カナビスを使うと統合失調症の発症率が6倍に増える

カナビス反対派が最も好んで引用するフレーズ。1987年に発表された
スエーデンの研究をもとにしているが、6倍という数字は除去すべき交錯因子も考慮されておらず、現在では、この論文を書いた研究者も含めて、この数字をそのまま信じている研究者は誰もいない。

だが、反対派がいまだこの数字に拘っているのは、その後の研究ではカナビスと精神病の関連に余り強い証拠が見付からず、他に有力な材料がないことを反映している。

6倍、600% を参照。

カナビスの使用がすべてなくなれば、統合失調症の13%が回避できる

カナビスが統合失調症を引き起こしているとすれば、もしカナビスを完全に追放できればどれだけ統合失調症が減らせるのかという疑問が出てくる。この問題に言及しているのが、
オランダの研究スエーデンの研究で、ともに13%という数字を上げている。

13%という数字は非常にインパクトがあり反対派の人たちもあちこちに引用しているが、実際には、仮定条件にもとずいた机上の数字でしかないく、また、この数字をもとに計算してみても全体的にはほとんど意味のない数字であることがわかる。

統合失調症が13%減る? を参照。

カナビスによる実際の統合失調症の発症例は

カナビスが統合失調症を引き起こしていると主張している研究を調べてみると、標準的な診断基準で統合失調症になったと診断されている人の数は、実際には驚くほど僅かでしかいない。

実際の発症例は? を参照。

自己申告にもとずくデータは何が問題か 交錯因子とは

自己申告データとは、調査対象者自身が自分の体験を語ったテータのことで主観的な記憶がもとになっている。客観的な裏付けがないために、当然のことながら、記憶や認識違いの他にも、知られたくないことについては触れなかったり、場合によっては自分を良くみせようとして嘘をついている可能性も高くなる。

特に、カナビスのような違法ドラッグについては大きなバイアスがかかるほか、統合失調症の調査では、自分だけではなく家族の重大なプライバシーも係わってくるので、データの信頼性を確保するという点で大きな難点を抱えている。

また、近年では、とくにドラッグについては自己申告の信用性が疑問視され、学校でもドラッグテストが実施されるようになってきている。これに対して、カナビスと精神病に関する主要な調査研究は自己申告に頼る方法を取っているために、研究そのものの信頼性を十分に確保できないという手法的脆弱性を最初から内包している。

交錯因子に関しては、カナビスが精神病を引き起こすというモデルが前提になっているために、カナビス以外に原因となっている交錯因子を統計的に除去する処理が必要となる。
交錯因子としては、年齢や性別などのほかにも社会環境、教育程度、IQ、他のドラッグ使用などがあるが、研究によって項目はバラバラで研究者の恣意的な意図が紛れ込んでいる。

また、交錯因子の除去は本質的に消去法なので、調査に含まれていない交錯因子の影響は除去されずにすべてがカナビスの原因として加算されてしまう。このために必然的に数字が大きくなってしまうという問題がある。

結局、リスクは何倍なのか?
カナビスとアルコールの相乗効果が考慮されていないのは何故か? を参照。

精神脆弱性のあることをどうして判断するか

精神脆弱性があるかどうかを事前に正確に知ることはできないとされているが、家族内に統合失調症歴のある人がいる場合にはリスクが高いことが分かっている。精神科医の診断やでも分かる可能性はあるが、実際問題として、医者はそう思っていたにしても統合失調症になりやすいとは簡単に言えない。

しかし、精神脆弱性のある未成年がカナビスで発症しやすいということは、逆にいえば、カナビスで統合失調症の予兆を発見できる可能性のあることも意味している。未成年の子供が、いつのまにか一人で多量にカナビスを使うようになっていたら精神病の予兆を表している可能性がある。

カナビスの効果には、リクレーショナル用途の「高揚」型と、痛みや不安を和らげるための医療カナビス用途の「安堵」型がある。大半の人が高揚感を求めてカナビスを使っているが、安堵感を求めて使っている場合は、精神的な障害が原因になっている可能性がある。たまに皆んなで騒ぐ高揚型と違い、安堵型の場合は、いつのまにか一人で常用して使うようなシーンが多くなる。

カナビスで精神病の予兆をキャッチする を参照。

未青年は何故危険なのか

未成年時にカナビスを常用していると数年後に統合失調症を発症しやすいという主張は、個別調査の結果を集計した疫学研究がもとになっている。調査方法には、
いくつかの手法があるが、いずれにしても、ユーザー・グループとノンユーザー・グループでの発症率を比較してリスク倍率を割出している。

しかしもともと、統合失調症の発症年齢は25才前後を中心に21〜32才付近に多く分布しているのに対して、カナビスの常用開始年齢は18から25才で統合失調症に先行して一部が重なり合っているために、カナビスが統合失調症を引き起こしているように見えやすいという側面がある。

このために、もっと決定的な証拠を求めて、遺伝子の影響やカナビス使用による未成年の発達中の脳への悪影響を調べる取組も行われている。しかし、現在までのところ、肯定的な研究 も 否定的な研究もあり、はっきりしているのは、悪影響があるとしても一時的なものか、あるいは全員がそうなるほどの決定的な影響ではない、ということまでしかない分かっていない。

実際には、若者の大多数は未成年期にカナビスを利用してもそれだけが原因で統合失調症になるようなことはなく、精神脆弱性を抱えた少数の人がカナビスを常用している場合の一部に限られている。従って、月に1〜2回程度のつきあい使用では統合失調症のリスクになることはないと考えてもよい。しかし、未成年のカナビス使用は、学業不振や非行の原因になったり、経験が浅いためにパニックになったりする事故を起こしやすいことが知られている。

直接の因果関係はあるのか? カナビスは小要因群の一つ
未成年者と親のための害削減の方法
カナビスと精神病の関連を示す強いエビデンスはない、カナビス48論文 検証レビュー を参照。

カナビスで幻覚がみえる

幻覚の定義と頻度の問題はあるが、カナビスでも幻想は見えるし,幻聴も聞こえる。しかし、精神病の幻覚や幻聴とは本質的に異なる。 一部では、カナビスと精神病の問題が、幻覚の有る無しの議論に集約してしまうこともあるが、このような2元論は議論のための議論に過ぎず意味はない。

幻覚が見えると精神病か? を参照。

カナビスの酔いと統合失調症の症状の違いは

カナビスの体験では、体験者としての自分と観察者としての自分がいることを自覚できる。しばしば、病識が伴わないのが特徴だと言われる統合失調症とその点が決定的に異なっている。

体験者としての自分、観察者としての自分 を参照。

カナビスは精神病のロシアン・ルーレット

このフレーズは、たいていは、統合失調症で自殺した子供を持っている
親から発せられている。親とすれば、子供の自殺は簡単に受け入れることができない。

統合失調症には遺伝的な要素や生活環境も影響しているので、親としての自責の念も感じてしまう。そこで、子供がカナビスを使っていたことを思い出し、実際の原因はどうあれ、すべての原因がカナビスにあるとして納得しようとする。

だが、その過程で、カナビスに対する考え方は大きく2つの方向へ分かれる。ロシアン・ルーレットという考え方は、他の多くの若者たちが統合失調症になっていないのに、自分の子供だけがなってしまったことを運が悪かったからと解釈することから出てくる。

一方、カナビスに対する自分の無知を感じて勉強し直して、合法化することで正確な知識を教育すべきだという考え方や、カナビスをヘビーに使っていたことを知りながら、深く注意もせずに子供の病気の発症を見逃した無念の経験を語る親もいる。

カナビスが息子を殺した、だから合法化すべき、うつ病で自殺した息子を思う父親の訴え
カナビスの規制・合法化に賛成、統合失調症患者の母親の訴え
カナビスで精神病の予兆をキャッチする を参照。

10 アルコールの併用は危険を加速する

精神病の調査研究では、何故か、アルコールとカナビスの相乗効果については交錯因子としてほとんど考慮されていないが、実際には、カナビス・コミュニティでは、アルコールとカナビスを併用すると 
カナビスの依存性 が高まり、精神病の兆候のある人は症状が悪化しやすい、と昔から語られている。

カナビスとアルコールは相乗効果が考慮されていないのは何故か? を参照。

11 30才過ぎから始めたカナビスでも統合失調症になるのか

カナビスを使用しているかどうかにかかわらず、30才を過ぎても統合失調症を発症する人はいる。従って、30才になってからカナビスを始めた人でも統合失調症にはなり得る。しかし、発症率はノンユーザーと違いはなく、カナビスが原因になって発症するとは考えられない。

ある研究者によると、精神脆弱性を抱えていない人が15才以上でカナビスによる統合失調症を発症したという例は報告されたことはないという。また、カナビスの危険性を大々的に警告している医者でも、21才以上でカナビスを始めた人で長期的な精神病になった例は知らない、と語っている。実際、カナビスと統合失調症の研究は、そのことを反映して、対象がほとんどが未成年から青少年期に限られている。

結局、リスクは何倍なのか? 調査によって結果はばらばら を参照。

12 なぜ、精神病患者はカナビスを使いたがるのか

精神病患者のカナビス使用率が高いことはよく知られている。当然のことながら、わざわざ調子を悪くしようと思ってカナビスを使う人はいない。自殺するために睡眠薬や鎮痛剤を多量に飲む人はいるが、
カナビスには致死量がない ためにそのような使い方もできない。

精神病を患っている人がカナビスを使うのは、調子が改善することを体験的に知っているからだ。このような使い方は、リクレーショナルで高揚感を求めるような多くの場合と違い、安堵感を求める医療的な利用ということができる。カナビスを巻いて一服するという行為そのものが緊張をとき、すぐに現れる効果で直前までの苦痛を忘れる。

しかし、問題は、いつもそのような反応が得られるとは限らない点にある。その時のセットやセッティングの状態やカナビスの種類によっても効果が変わる。最も悪いは、カナビス使用中にバッドな状態になった時に、それを回復させようとしてさらにカナビスを使うパターンで、依存症に発展し状態をいっそう悪化させてしまう。また、医者が処方した薬やアルコールと併用すると、効果が相乗作用や相反作用を起こす危険もある。

カナビスで精神病の予兆をキャッチする を参照。

13 カナビスで精神病がよくなることもあるのか

一部の統合失調症患者たちはカナビスの使用で 「人の声の幻聴がおさまる」 と答えており、カナビスには治癒効果があることを示唆している。また、動物実験でも治療効果を認めた研究もあり、GW製薬でも経口カナビス・スプレーのサティベックスが統合失調症の治療に使えるのではないかとして治験を進めている。この他にも実際例がいくつか報告されている。

治療にはCBD(カナビジオール)の多い品種が適しているとされているが、禁止法のためにほとんど研究が行われておらず、はっきりとした見通しは得られていない。

カナビスは第一選択薬、子供の精神障害
医療カナビスで子供のADHD治療、クラウディア・ジャンセン医師に聞く
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うつ病 と そう病、気分障害に揺れるカナビス
カナビスが精神障害を緩和
カナビスには精神病を抑える効果もある  を参照。

14 精神科医はカナビスのことをどれだけ知っているか

一般に、精神科医は精神病の専門家であって、カナビスの専門家ではない。患者を通してカナビスのことを学ぶことはあるかもしれないが、学校で習うこともなく、また、カナビスを自分で使っていることが発覚すれば、医師免許が剥奪される恐れもあるので、実際には、カナビスを知る機会はほとんどないと言ってもよい。

また、いったん患者に統合失調症という診断を下してしまうと、患者はいろいろな不利益や偏見を受けることになるので、はっきりとした診断は簡単に出し難いという事情や、逆に統合失調症が発覚した後では、カナビスに馴染がない分だけ、原因になっているという印象を持ちやすいという面もある。

研究者はカナビスのことを余り知らない?
精神科医はカナビスに敵対的? を参照。

15 診断名に掲載されているのだからカナビスによる精神病は実在する

WHOの国際疾患分類ICD-10 の分類表を見ると、「精神作用物質使用による精神及び行動の障害」の分類には、カナビス、アルコール、アヘン、コカイン、幻覚剤などの他、カフェインやタバコなども診断名に列挙されている。しかし、症状に関する細分類ではどれも同じで、急性中毒、有害な使用、依存症候群、精神病性障害、詳細不明の精神及び行動の障害などというフォーマットが使われており、薬物名だけが置き換えられている。

このことから見ても、疾病の原因やメカニズムについてはあえて考慮せずに、診断名が機械的に付けられていることがわかる。医者とすれば、疾病には何らかの診断名をつける必要があるので、診断基準では「その他」という項目まで設けてどのような症状でも捕捉できるようになっている。

実際には、こうした診断名は、カナビスのオーバードーズでバッドトリップになり病院に駆け込んだ場合などに簡単に使われているのが実態で、カナビスと統合失調症の因果関係を示しているわけではない。バッドトリップは数時間で自然に治まり翌日まで残ることはないので、6カ月以上症状が持続することが診断条件になっている統合失調症とは全く異なる。

統合失調症とは を参照。

16 現在のカナビスは、昔のものより20倍以上も強力で危険だ

このフレーズは、カナビスの危険性を指摘する反対派の常套句になっている。20倍も効力が増えているのだから、なんとなく危険も増えるだろうという一般感覚によくマッチしているが、これは雰囲気だけの話で、実態は全然違う。効力は20倍も増えていないし、効力が高いから危険なわけでもない。

効力の強いカナビスほど危険? を参照。

17 今では専門家も、カナビスの危険がヘロイン以上になっていると言っている

「カナビスの危険がヘロイン以上になっているという見方」 をしている科学者などいない。この発言は、科学によるものではなく、どれも政治的な背景を持っている。現在、このようなリーファー・マッドネスが最も盛んに行われているのが、オーストラリアのサウス・ウエールズ州で、カナビスの喫煙具や室内栽培用具の販売禁止まで検討されている。

カナビスは精神病に最悪のドラッグ
オーストラリア保健相、カナビスはヘロインと同じくらい危険 を参照。

18 リシンクなどは何故キャンペーンを一生懸命にやるのか

イギリス最大の精神病慈善事業団体の一つである 「リシンク」 (
Rethink) が反カナビス・キャンペーンに熱心に取り組んでいるのは、もちろん青年のカナビス使用が精神病の引き金になると考えているからだが、最も大きな動機は、統合失調症に対する世間の偏見を取り除き理解を求めることから来ている。

リシンクの主張は、精神病のさらなる研究とその成果を反映させた患者の環境改善、教育による若年層のカナビス使用の防止などの害削減が大きな柱で、反対派のようなカナビスに対する攻撃が目的ではない。実際に、カナビスをC分類から罰則の厳しいB分類へ戻すことには 反対 している。

リシンクのキャンペーンに対しては、2006年1月に行われた、チャールズ・クラーク内務大臣のカナビス分類を変更しないという最終決定に、精神病問題の深刻さを考慮してさらなる研究と調査を求めるとの勧告が盛りこまれた。大臣も、数百万ポンドをかけてカナビスに関連する精神病の危険性を訴えるキャンペーンと研究や公共教育を実施すると表明していたが、実際には実行されず、リシンクは2006年6月の下院科学技術委員会へ提出した書類による証言で強く抗議している。

イギリス、政争の具にされた精神病問題 を参照。

19 アメリカでは、カナビスと精神病問題はあまり問題になっていない

「リーファー・マッドネス」発症の地でありカナビスの悪害追求に最も熱心なアメリカでは、現在、カナビスと精神病の問題はあまり取り上げられていない。実際に、ONDCP自身が発行している 「
マリファナ、神話と真実」 という若者向けの教育パンフレットにすら直接精神病問題触れた項目は出てこないし、2006年11月に行われたコロラド州やネバダ州のカナビス合法化住民投票でも、精神病問題は全く論争にのぼらなかった。

アメリカでは、カナビスと精神病の問題はない?
カナビスとアルコールは相乗効果が考慮されていないのは何故か? を参照。

20 厳罰化が必要か

現実には、禁止法というヒステリアは、精神にストレスと緊張を与え、かえって悪い症状を誘発している。精神病の本人や家族など当事者にとっては病気自体が深刻な問題なのであって、それに対処できるのは、刑事罰ではなく治療と事実にもとづいた教育だけしかない。そのことをよく示しているのがイギリス最大の精神病慈善事業団体の一つである 「リシンク」 (
Rethink) の例だ。

リシンクは、カナビスと精神病の問題について積極的にキャンペーンを展開し、カナビス使用には厳しい警告を発しているが、人と資金は刑事訴追にかけるよりも健康教育に回すべきだとして、カナビスをC分類から罰則の厳しいB分類へ戻すことには 反対 している。

カナビスの規制・合法化に賛成、統合失調症患者の母親の訴え を参照。